カシャン と何本目かの缶が取り出される。
コンビニで買ったはずのアルコールは、ことごとく目の前の彼女が空にしていく。
一体どれだけ飲むんだと呆れながらも付き合っている自分。
「ちょーっと、陣平飲んでる?」
「飲んでるって。」
通いなれた居酒屋で座りなれた椅子に座っていたのは今から少し前。
忙しさにかまけて、充電を怠っていた携帯の受信ボックスにはからのメールが詰まっていた。
やれやれ、と返事を返したのはつい数時間前。
その後に間髪あけずに帰ってきたメールで居酒屋で待ち合わせすることが強要されていた。
まったく、彼女らしいと思う自分はもしかしたら、にだけは甘いのかもしれない。
側
にいるよ
「で、?」
「向こうで彼女作ったらしいんだよね。」
まぁ、半年日本にいなけりゃな、と陣平はの頭に手をポンと置いた。
これは口数の少ない彼なりのメッセージで、泣いとけよ、と言われているようなものだとは分かる。
数回、軽く置かれた手のひらは男の人なのに綺麗だと見とれる時がある。
夜の公園は久しぶりだとが笑う。
危ないから夜遅くにフラフラと出歩くな、と陣平のみならず研二にまで言われたことをどうやら守っているらしい。
千鳥足のを見るのは、就職が決まった日の夜以来かもしれないと陣平は思う。
カンッ・・・と足元の開いたビールの缶をが軽く蹴飛ばす。
まだ少し入っていた中身がゆっくりと零れ落ちる。
「好きだったのにー!」
「、うるさい。」
「だって、だってさぁ。」
「ったく、ここ座れ。」
「・・・何よ、余裕ぶちゃって。」
萩原君が言ってたんだから、とが笑って次の缶に手を伸ばす。
何を、と尋ねるとにやりと彼女は微笑む。
「陣平はー、若い子にとーっても人気が、あるんだってねー。」
「・・・んなこと言ってたのかよ。」
アノヤロウ、と小さく舌打ちをして、同僚を思い浮かべた。
じゃぁさ、とコンビニの袋から缶を取り出してカチッとプルタブを引く。
「俺・・にする?」
「・・しない・・。」
「するって言えよ。」
「・・・ヤダ。陣平もいっぱい・・遊んでるって。」
「んなの、噂だろ?」
俺は酔っ払いに付き合う趣味はない、と言うとが鼻をこすりながら顔をあげた。
好きな奴じゃなかったら、付き合わねえよ、と言葉を続ける。
こんな時で悪いけど、と一旦言葉を切るとを思い切り後ろから自分の胸に引き寄せる。
「ちょ、ちょっと、陣平っ。」
「何?」
「なに、じゃなくて・・・離してよ。」
「断るって言ったらどうすんの?」
「どうするって・・・。何言って、」
いい人のふりも限界。
「お前のどこが、いい人なんだよ。」と研二が笑っていたのを思い出す。
イイヒトは恋人がいる奴の事を想ったりしねえよ、と額に缶珈琲をぶつけられたのは今日の昼だった。
「悪いけど、泣いてる好きな女を黙って見てるなんてできないんでね。」
「じ、陣平?」
ああ邪魔だな、と彼女の手の中にある缶を取り払って体を反転させる。
地面に転がる缶から独特のアルコールの香りと微炭酸が広がる。
何を、という表情の彼女に口角を持ち上げるようにして笑みを浮かべた陣平はゆっくりとした仕草で
の頬に手を置いて、顎を軽く持ち上げる。
途端にずらそうと顔を横に向けるに、さらにその笑みを深くする。
「逃げんなよ。」
「・・・」
「俺に、しとけ。」
「・・・・」
イヤだと動く唇を見たくなくて、両手で頬を包んでそっと額にキスをする。
ギュッと瞳を閉じる仕草をする彼女を見て、ゆっくりと片手を開放する。
「キスされるとでも思った?」
「っ、な!!」
ご期待に添えずに悪いな、と陣平は笑ってを抱きしめる腕にそっと力を込めた。
真っ赤になったの耳が期待を高める。
「。」
「・・何よ。」
「耳が赤い。」
「そっ、それは、陣平が。」
「何とでも?」
ゆっくりでいいよ、君が笑ってくれるなら。
側に居るよ そんな合図を君に 不意打ちの キスを
「・・お前、酒くさい。」
「っんな!!」
「あー、はいはい、叫ぶなよ今12時過ぎてんだからな。」
「嘘?!」
「に嘘ついても得はない。」
「・・・むかつく。」
もう、とは思い切り空き缶をゴミ箱に投げる。
カシャンといい音がしてきちんと中に落ちたのが分かる、と同時にの体も陣平に向かって傾く。
酔ってるんだから、急に立ち上がるなよと言うと、うるはいなぁ、と呂律の回りきれていない言葉が返ってくる。
「俺にしとけよ。」
「じんへー?」
「そ。酒癖の悪さじゃ、引かないしな。」
「いじわるー。」
「ほら、帰るぞ。」
「うぃー。」
キス摩の陣平、とが笑う。背中にある体温が温かく感じた。
(俺以外、誰が面倒みるってんだよ、こんな・・・。)
「側に、いてやるよ。」
どんな時でも、君の側に。