いっそぶちまけてしまえばいいのに、と思う。
優しすぎる彼は、いつもヒール役を買って出る。
そんな優しい彼を目の当たりにしているあたしは、可愛くない態度で彼を困らせてしまう。





  明できないけれど






「また?!」
「そうですよ。」

あたかも当たり前ですよね、という返事をきたいしているかのような受け答えに注文したカフェオレを一気に飲み干す。
そんなにあわてて、と彼は優しく言いながら飲み終えた後、口を押さえられるようにナプキンを差し出す。
無言で受け取って、それを唇に押し当てて注文していたケーキを一口頬張る。


は、本当に美味しそうに食べるね。」
「・・・それ、嬉しくない。」
「あはは、褒めてるんですけどね。」
「褒められてる気がしない。」

言い合っても結局いつも勝つのは彼。
毒気を抜かれてしまうあたしは、もう、いいよ、と会話を強制的に終了させる。
きっと、今日もまたそうなんだ。

叶わないんだ、その大きな愛情の前に自分のちっぽけな愛情は。
包み込むような愛情を注ぐ彼の優しさは、自分の愛情と比べたらそれはもう比較の対象にすらならない。


は、今日はいつもより静かだね。」
「・・そんなことないです。」
「そうかな?」
「そうです。」

じゃあ、勘違いかな、と彼は笑う。
コツ、とサングラスがテーブルの上に置かれる。
彼の瞳を見るのは好きだ。
一番、彼らしいと思うところだから。


「そのケーキ、美味しい?」
「甘いけどね。美味しい。」
は、甘いものが好きだからね。」
「・・・女の子だもん。」

ふっ、と彼は表情を緩める。
女の子はみんな、甘いものが好きだという一般論に納得しているのだろうか。
例外もあるかもしれないけれど、は甘いものが大好きだと思う。
甘いお菓子、甘いお茶。甘い、甘い、時間。


「・・・まだ、言わないの?」
「うーん、そうだね。」
「・・何よー、自分の気持ち押し殺しちゃって。」
「そう見える?」
「見える。見える。丸見え。」
「ははは、には参るな。」

いつも、真っ直ぐにぶつかってくるね、と彼が笑う。
確かに、そうなのかもしれない、と思い当たる節がいくつかある。
その度に彼を困らせていたのかもしれないな、とぼんやりと思う。
そうじゃない、そうじゃない、と彼は何度も笑っていたけれど。


「・・・だって、イヤなんだもん。無理するの。」
「うん、それは僕も同じ。」
「ウソッ。」
「どうして?」
「だ・・っ・・て、だって。」

無理、してるじゃない。

そんな今にも泣きそうな顔で言われても説得力がないよ、と叫んでしまいそうだった。
彼の浮かべる笑みが好きだ、けれど、時々嫌いだ。
無理してる笑顔は、すぐに分かる。


「ほら、僕はやっぱりには叶わないね。」
「意味が分かんないよ。」
「だって、は今気がついたんだろう?」

僕が、無理をしていることに、と言葉が続く。
だって、それは、貴方を見ているから。
その瞳の奥に隠れている本心を見抜いてしまえるように、と思っているから。

「いいんだよ、のままで。」
「・・・やっぱり、意味不明。」
「あはは、君が、君らしくいてくれることで、僕が僕らしくいられるってことですよ。」
「・・・そうなの?」
「ええ、そうです。」

怪しいな、とカシャン、カシャン、とストローをグラスの中で回転させる。
氷がまるで自分の心音のように軽やかに音を立てる。
照れ隠しの行動も彼はお見通し、ほら、少し意地悪な笑みを浮かべてる。

「そういうところが、好きなんです。」
「・・・好き・・とか簡単に口にして欲しくない。」
「簡単じゃないですよ。」

僕だって、押し殺してしまうにはもったいない気持ちを持ってるんです、と彼は笑う。
押し殺してしまうには、もったいない、けれど口に出すことももったいない、とは思う。
だって、声にしてしまったら、自分の中の想いがすべて溢れて出てしまいそうだから。


は、時々素直じゃないね。」
「・・・それが、私だもん。」
「うん、らしい。」

だからかな、と松中さんはクスリと小さな笑みを浮かべる。
何が、と視線を向けると対面に座っていた体を起こして、隣に移動してくる。
ギシ、と小さな音がして彼が腰掛ける。

が、らしいから、こうして僕は口にできる。」


好きだよ、と彼がささやいた。