参ったなぁ、という表情は彼が良くする。
少し困ったように眉が寄せられて、後頭部に手がいく。
きれいな微苦笑。
そんな彼の顔が見たくて、わざと彼を困らせてみるは 今の習慣。
ごめんね、渉。
大好きだから、つい見たくなっちゃうっていうジレンマ許してね。





  れいな微苦笑






「構って〜。」
「・・・、どうしたの?」
珍しいね、そんなこと言うなんてと渉が笑う。
その微笑は優しくて、大好きだなぁと思う。
生ぬるいベッドから足先を出すと、ひんやりとした空気がつま先に触れて一瞬体に電流が走る。
「今日も寒いのかなぁ。」
「んー、だろうね。そういえば警部が今週は冷え込みが厳しいって話してたなぁ。」
「ふーん。天気も気にしないといけないんだ。」
「そうだね。」

ちょっとごめん、と彼が腕を少し動かした。
見かけは華奢で、女の自分よりも細いんじゃないのかと思う彼だけれど、こうした時に見える腕は
やはり自分とは違う男の人なんだと思う。
気恥ずかしさと嬉しさが交差して、頬が緩む。

「渉、腕痛くない?」
「平気だよ。」
「・・・・私がしてみていい?」
「え?が、腕枕?」
(あ、参ったなぁの仕草。)
そんな彼の行動に笑みがこぼれてしまう。
「どう?」
「嬉しいけど・・・の腕が心配かな。」

平気だよと笑うとじゃぁ、お願いしようかなとすっと腕が抜かれる。
いつもとは逆の行動に、少しドキドキしながらいくよ、と言うと彼が小さく笑う。

「・・なんで笑うの?」
「だって、普通いくよとか言わないんじゃないの?」
「・・普通、って・・・どういうことー?」
「あ、いや、ほら・・・腕を置くだけ・・だろ?」

少し慌てる彼を見て、また彼のクセを目にする。
少しイジワルな質問だったかなと反省をして、そっと枕の腕に腕を置く。
どうぞ?と言うと彼はそっと頭を置いた。
痛くないかな?と心配そうに言う彼に大丈夫だよと言って床に落ちているリモコンを彼に渡す。
この時間だったら、ニュースくらいかな、と言うと彼はテレビに電源を入れるのを躊躇う。

「渉?」
「あ、いや。ニュースってさ・・・ちょっとね。」

つい事件を浮かべてしまうのは彼の職業が刑事だから。
そんな少し仕事バカな彼の手からリモコンを奪ってあ、という小さな声には耳を傾けずに電源を入れる。
大丈夫、大丈夫と笑って言うと参ったなと小さく言葉にした。
ケーブルテレビのチャンネルが洋画放送の時間だったらしく画面を明るくする。
そういえば、ブームになっていた気がすると遠い記憶を呼び起こす。

?」
「ん?」
「何か怖い顔してたよ。」
「失礼な!ちょっと思い出してたのブームになってたなーって。」
も嵌ってた?」
「うーん、流行が終わった頃レンタルした。」
「あはは、らしい。」

じゃぁ渉はどうなんだとが隙間がない距離をさらに詰める。
どうだったかな、と記憶を辿って色々と映像が浮かんでくる。
確か、あれはと思い浮かんでくる警部の顔や同僚の顔。

「うーん、俺も多分ブームの時は見てないかな?」
「あはは、やっぱり!そんな気がした。」

今から見ようか、と提案して見終えたら起きて散歩でも言ってご飯食べようとざっくりと1日の予定を立てる。
今9時を回っている時計の針を見て、今日はブランチだなーとが呟く。
は腕が痛くないのだろうかと渉はそっとその腕を見る。
自分とは違って白いその腕は自分が乗せている頭だけで折れてしまいそうだと思う。


「友達の話では、船が氷山にぶつかった時点で泣き始めた人がいたんだって。」
「えぇ?!ここで?」
「うん。多分ね、何回か見に来てる人でこの後の展開が分かるからなんだと思う。」
「へぇー、そんなに嵌ってる人もいたんだね。」
「ちょっとびっくりだね。」


ピリッとした空気をつま先に感じて、はいい加減冷えてきたと出しっぱなしだった片足をベッドの中に入れる。
ひんやりとした左足が自分の右足に触れると一瞬つま先がビクリと動く。
結構な時間、投げ出してたのかと自分の足癖を反省する。
やっぱりさ、と彼は電源を落としてリモコンをゴトリと床に置くと彼にあ、と抗議の声を漏らしたけれど
彼はゴソゴソと動いて言葉を続ける。

と一緒にいるんだし、やっぱり事件のことに結びつくものはね。」
「・・・思い出さないようにしてるの?」
「そう、かな。とこうしていられる時に浮かべたくないだろ?」

だからこの映画はやめよう、と彼が言う。
そんな一言が嬉しくて、空いてる片手を彼の頬にペタと当てる。
そっと頬をなぞって、唇に指を押し当てる。

「ね、今さもしここで抱きついたりしたらどうする?」
「・・・うーん。」

彼は参ったなとは言わなかった。
言葉の変わりにそっと額に唇が落とされた。
参ったな 今度は自分がそう思う番だった。

「知らないよ?」
「え、えぇ?」
「遊びに行けないって・・・意味に取ってもらっていいかな。」

生ぬるいベッドの中、絡み合う足先。冷たくなったつま先に触れた彼が、笑った。
きれいな微苦笑で、冷えてるよと。

「だったら、温めて?」