やっと手に入れた。
親友の幼馴染だった彼女 ずっと、ずっと、焦がれてた。
自分の隣で微笑んでくれないかと。
「まったく、世話が焼ける」と親友が漏らした言葉は、おめでとうと置き換えた。





  なしい、それともさみしい?






来てほしいと思っていた人が、自分のトナリに来てくれた。
けれど、仕事で時間を決めることが出来ないから、君がどう感じるかがとても不安。
そんな事、口に出しては言えない。


そっと動かした腕に君の髪の感触がなかった。
重たいまぶたを持ち上げて隣をみると、いるはずの彼女の姿がない。
それがぽっかりと小さな穴が開いたような感覚を思い起こさせる。
かなしい、さみしい、辛いと形容詞を浮かべてみてもしっくりくるものがない。
きっとそれは漂ってくる香りが、彼女が今どこにいるのかを知らせているから。

パタパタ、とスリッパの音がしてドアの前で一度止まる。
あと数秒でドアが開いて君の声がするだろう。
もう一度布団をかぶって瞳を閉じる。


「萩原君。」


柔らかな声で名前を呼ぶ彼女。 シャッという音がして、瞳を閉じたままでも太陽の光を感じることができる。
まだ寝てるのかな、という声が近づいてきてそっと額に手が触れる。
ひんやりとしたその感触が気持ちよくてもう少しこのままで、なんて思ってしまう。


「おはよう、さん。」
「・・・おはよう、萩原君。」

なんだか新鮮だね、と君が微笑む。
春めいた日差しの中で迎えた1日。


「あのね、ご飯、ご飯作ったんだけど。」
「ん、今行くよ。」
「うん。ねぇ、外見て?すごくいいお天気。」
「晴れ?」
「うん、晴れてる。」
「良かったね、さん。」
「うん。ほら、研二君と一緒に出かける時は晴れていてほしいじゃない?」

だから、やっぱり嬉しいんだとが微笑む。
一瞬にして恋に落ちた笑み。

(年上・・には見えないよな。)

目の前に座る彼女の手にそっと触れる。
手の甲にキスを落とすなんて、映画だけでしかしないものだと思っていた。
けれど、今自分はそうしている。
無意識に、ただ触れたいと思ったから。

「ちょ・・・萩原く・・・。」
「研二。」
「・・・・け・・・んじ。」
「そ、これから名前で呼んでくれる、さん?」
「じゃぁ・・・さん、ってつけないで?」
「仰せのままに、?」

とたんに赤くなる君は、やっぱり年上には見えない。
口を開いては、閉じて、また開く。
その繰り返しが何回か行われて、そっと声が発せられる。

「やっぱり、さん付けでいい。」
「何で?」
「・・・恥ずかしいから。」

ねぇ、朝から・・・って思うけど我慢できないのは健全な証拠としてくれるかな。
ベッドサイドに腰掛けていた彼女は立ち上がろうとする。
その手を握り締める。

「ちょっ、ちょっと・・・萩・・け、研二君。」
「君もなし。」
「っ、どこ触って・・・、あ、朝ですけど。」
「朝だね?」
「ご飯・・・ご飯冷めちゃう。」
「シッ、黙って。」
「・・・・・。」

そっと唇に触れて、離れる。
繰り返して、そのたびに深くなっていく。
こんな気持ちが止まらないなんて、口にするのは恥ずかしいけれど。
小さく漏れるの声にゾクリとする。





「・・・・。研二君の、えっち。」
「男ですから。」
「・・・最近、陣平に似てきたね。」
「・・・・・、他の男の名前呼ばないでくれる?」

せっかく二人でいるんだから、二人だけの空間には誰も入れないで。

「それから、”君”は、ナシ。」
「・・・・じょ、徐々にね。」

最高に愛しいコイビト。
最高に可愛いコイビト。
この手を絶対に離したくはない、そんな存在。

「研二・・君は、”さん”つけて呼んでよ?」
「さぁ、どうかな?」
「・・・・。」
「言っとくけど、布団かぶったまま睨んだって逆効果ですよ。サン?」
「・・・・もー、ばか!」

勢いよく飛んでくる枕を交わして変わりに君に抱きつく。
抱き枕じゃないんだから、と口を尖らせるにそっとキスをしてそっと抱きしめる。
かなしい、それともさみしい?君は何を思う?
隣に居ない時、そうだな・・・寂しいと思ってくれたら嬉しい。