い
としい
冷たいフローリングの上に座るのは夏はいいけれど、冬は気合が必要だとは笑う。
そんな話をすると秀一は、ブランケットを床に置いてくれるようになった。
そんな気遣いが嬉しくて、彼の耳元で大好きだと言ってみた。
けれど、彼は何も言わずにいた。
何気なく本を持っていた手が下ろされてそっと指先に触れた。
頬が熱くなる。
「無口な男は嫌われるのよ。」
気持ちとは裏腹に、可愛くない言葉を言ってしまう。
「そうか。」
「そうです。アメリカンな気分になったらいいのに。」
そう言うと秀一はと視線を合わせるように顔を上げて口元を少し緩める。
黙っていられる空間は嫌いじゃない。
だから、意識して会話をしようともしない。
ぽん ぽん と浮かんでくる言葉を使うのはたとえ意味が無かったとしても楽しい
特に、彼とこうして言葉を繋ぎ合わせるような会話が好きだとは思う。
この男は、どうなのだろうか。
赤井秀一という男は、掴めない男だと思う。
お腹を抱えて笑い転げる姿を想像しようとしたけれど、それを想像するには自分の力の限界を感じた。
「。」
「ん?」
「いや・・・寒く・・ないか?」
「平気よ。このくらいの寒さが好きなの。」
そうか、と彼はまた黙り込む。
は、一体シュウとどんな会話をしてるのかしら、とジョディが笑いながら聞いてきたことがあった。
言われて考えてみれば、パッと浮かばなくて返答に困ったことがある。
分からない、と答えると彼女は笑った、シュウも同じような顔していた、と。
難しそうな本を読むときの彼は、眉間に少し力が入る。
皺を刻むとはまではいかないけれど、眉が少し動く。
それから、少し瞳を細めるのが癖だ。
そんな癖を発見できたのは、映画を見るふりをして時折彼の顔を見てるから。
の持ってきた映画が音声を消したまま流れる。
音声の無い映画は、その分表情や仕草に惹きつけられる。
「あ・・。」
そうか、きっとそうなんだ、と秀一を見る。
言葉が少ないから、その仕草の一つ一つから目が離せないほど気になってしまうんだ。
小さくもらした声に、秀一が少し反応して本から顔をあげる。
何でもないよ、と首を振って嬉しい発見をした自分の頬が緩んだことが分からないようにマグカップを持ち上げる。
映画の中のヒロインも同じように笑っていた。
「ね、ブランケットあったかい。」
「そうか。」
「うん。」
(そうか・・しか言わないんだから。)
彼のベッドを背もたれに、大きく伸びをする。難しそうな本はもう少しで読み終わりそうだ。
読み終えた彼は、本をテーブルに置いてまず冷めてしまった珈琲に手を伸ばす。
それから、一瞬だけ目を合わせてキスをする。きっと、彼はそうするはずだ。
シュミレーションで描く彼の行動、想像力の範囲内。
そうなることが楽しみで、小さく出る笑いをかみ殺す。
「。」
何?というの声はかき消されて、頬に触れた温もりに気づく。
何で頬なの、と言えたらいいのに。
想像していない行動の後は、出てくる言葉が見つからない。
「無口な男は、嫌いか?」
「・・・ずるくない?」
「何とでも。」
自分の想像力では予想できない行動をいとも簡単にしてのける。
つくづく掴めない人だ。
赤井秀一という男は。
けれど、そんな彼と過ごす時間は、とてもいとしい。
無声音の映画が流れる部屋 両手をつめたいフローリングに貼り付けて そっと首を持ち上げる。
「ねえ、したいな。」
「何を?」
「キス。」
きっとふってくる 受け止める瞬間が とても いとしい