ロイ・マスタング。

地位は大佐。

野望達成のため日々奮闘中。

…現在、重体。











「お花畑の向こう」











「『つい』じゃねーよ、『つい』じゃ!!」

「いやぁ…つい…」

「うがー!!」

あはは、と笑うエド、(多分)顔面蒼白のアル、頭を抱えて叫ぶハボック、…倒れたまま動かないロイ。

町中で見るには少々おかしな光景だった。

「ちょっと大佐!しっかりしてくださいよ!大佐ー!!」

意識のない者をがくがくと揺さぶるのは危険極まりないと思うのだが、エドは敢えてツッコミはいれなかった。

「…アル、やっぱマズいことしたかな?」

己を指差して聞いてくるエドに、アルはがっくりと肩を落として返す。

「…路地の隙間から姿を見た途端、問答無用で後ろから右手(機械鎧)で思いっ切り頭をぶん殴って、

理由を聞かれたら『つい』で済ませる行為が正義だとは言えないよね」

「…やっぱり?」

あはは、と笑う姿からは、罪の意識は感じられない。…いや、むしろ喜んでいるのかもしれなかった。

「でもまぁ…このままここに転がしといても皆さんの迷惑だし…」

「お前なあ…大佐の意識があったらもう原型とどめてねーぞ」

意識が戻らないので揺さぶることをやめ、足元に転がっているロイを眺めながらハボックが溜め息をついた。

「…何をしているの?」

そこへ唐突に割って入ったのは、聞き慣れた凛とした声だった。

「あれ?中尉じゃん。どしたの?」

「少尉と視察に出かけたっきり、大佐がなかなか戻ってこないから…」

そこで、ちらり、と足元に目をやる。

「…エドワード君の仕業ね?」

「いやぁ、あはは」

「とりあえず、大佐は無事みたいだけど…」

「え、無事?」

エドのツッコミは軽く流し、ホークアイは言葉を続けた。

「少尉は?」

『へ?』

声をハモらせ、エドとアルは顔を見合わせた。

「…ハボック少尉なら、そこに」

いますけど。

そう言おうとしたところで、アルは固まった。

…いない。

影も形も、そこには残っていなかった。

「…逃げやがった…」

「…みたいだね…」

ホークアイは、唖然としている二人を不思議そうに見つめていたが、

やがて気をとり直したように言った。

「大佐、どうすれば起きてくれるかしら」

「え?…うーん…あ、よし!」

「え、兄さんなにか策があるの?」

ぽん、と手を打ったエドに、アルは期待に満ちた眼差しを向けた。

元々兄が招いた事態だ。ホークアイにこれ以上迷惑をかけたくなかった。

「任せとけって!…中尉ー、オレの質問に答えてくれるか?」

「? ええ」

「よっし!」

そう言って、エドは軽くウィンクした。

「ぜってー起きる!…中尉、『らりるれ』の次は?」

「…『ろ』?」

「じゃあ、『あ』と『う』の間は?」

「『い』…?」

「それを続けて言ってみて!」

そこまで言って、エドは一歩下がった。

「ろ…い…?」



ガバッ!!



『!!?』

突然飛び上がるようにして起きたロイに、アルとホークアイはびくりと身を震わせた。

…一歩下がっていなければ、頭がエドの顎に直撃していただろう。

「た…大佐…?」

「中尉!!」

ガッ、とホークアイの両肩を掴み、ロイは瞳を潤ませて言った。

「私はっ…私は、嬉しい!!」

「大佐、たんこぶができていますが」

「嬉しいぞおぉぉお!!」

もはや聞く耳もたぬ状態である。

肩を掴んで離さないまま、なにごとか叫び続けているロイを横目に、

ホークアイはじろりとエドを睨みつけた。

「…エドワード君?」

「ほら、大佐起きただろ?」

にっ、と笑って言ったエドを見て、ホークアイは溜め息をついた。

「これは私も是非期待に応えなくてはいけないな!よ、よし、リ…」

だが、そこで掴んでいた掌をしこたまつねられ、ロイはそこで黙らざるを得なかった。

「いででででっ!!…いやしかし、一時はどうなるかと思ったがな!なにしろお花畑の向こうで、

三つの時に亡くなった曾祖母が手を振っていたからな!」



…………。



「…なぁ、大佐、さ…」

「…うん」

「結構、ヤバいとこまでいってたんじゃねーか…?」

原因が自分だと分かったら、無事では済まないだろう。

こっそりと立ち去ろうとしたエドのフードを、誰かががしっ!と掴む。

「は・が・ね・の♪」

「………………!」

恐る恐る振り向けば、そこにあるのは極上の微笑み。

…手には、発火布。

「中尉に聞いたぞ?…これはどういうことかな?」

「え、あ、ちょ…」

ロイの後ろに視線をやれば、なにやら微笑めいたものを浮かべているホークアイの姿。

…どうやら、仕返されたらしい。

「や、やだなー、大佐、ほら、子供のオチャメない・た・ず・ら♪」

「そうか、オチャメないたずらか……ってふざけるなあぁぁあ!!」

「ぎゃーーーーー!!」



ドーンッ…



遠くで聞こえる破壊音に、兄の無事を一応心配しつつアルは横にいるホークアイに話しかけた。

「…中尉も、大変ですね…」

「…お互い様、ね」

そうして顔を見合わせ、お互い苦笑を漏らしたのだった。





…市街の破壊修繕費が全てロイ持ちになり、また一騒動あったのだが…それはまあ、別の話。






2004.5.17


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