…そう、このビー玉のように。 カラン、と涼やかな音をたて、ビー玉が転がる。 「新一、もう飲んじゃったの?」 「ん?ああ、喉乾いてたからな」 カラカラカラ。 片手に持ったラムネの瓶を振りながら答える。 夏の暑い日、学校帰りのラムネは格別だ。 「…きれいだよね、これ。」 「え?」 ふと横を見ると、蘭が自分と同じくビー玉を見ているのが目に入った。ラムネの栓をしていたビー玉だ。 しゅわしゅわと音をたてるラムネの中で、光を映しながら不安定に揺れている。 「…ああ、きれいだな。こいつのせいで、ちょっと飲みにくいけど」 「ふふ」 カラン、カラン。 (…まるで、) カランカラン。 瓶の中に落ちたビー玉は、決して取り出せない。取り出そうとして瓶を割ったりしたら、ビー玉も傷ついてしまうだろう。 …こんなに近くにあるのに、こんなに遠い。 「新一?どうかした?」 黙ったままの新一に、蘭が心配そうに声をかけた。 「なんでもねーよ。…そろそろ帰るか?」 「あ、うん」 名残惜しそうに、ラムネの瓶を見やる。 空になった瓶の中で、ビー玉は日の光を反射して淡く光っていた。 (…きっと、ある) 傷を付けずに、ビー玉を手にする方法が。 「明日も寄ればいいだろ」 「…うん!」 そう言って笑う蘭は、本当に嬉しそうだった。 カランッ… 蘭が置いた瓶の横に、自分の瓶も置く。 やはり涼やかな音をたて、ビー玉が転がった。 「行くか」 「はーい」 正攻法では決して取り出せない、ラムネのビー玉のように。 近くて遠い、…まるで、ビー玉が放つ淡い光のような僕ら。 けれど、いつかきっと……。 ---------------------------------------------------------------- 2005.5.17 BACK |