「オーディン、ほら!美味そうだろ?」
獲れたての木の実を差し出すと、オーディンはぱっと目を輝かせた。
「わあ、すごい!これ、どこで獲れたの?」
「へへっ、明日一緒に行こうよ!他のみんなには内緒だよ」
そうして、小さな秘密を共有することが、なんだかとても嬉しかったんだ。一緒に居る時間が一番長いって思ってたし、遊び友達であると同時に、町の平和も守って。
オーディン、…赤い旋風は、僕にとって誇りで、大切な友達だった。



あ き の う た






(だから……かな。)
オーディンが実は女の子で、しかも「キャピュレット家の唯一の生き残り」で、「ネオ・ヴェローナをモンタギューの手から救う」なんて偉大な使命を持っていると知って。
なんとなくもやもやしていた気持ちは、「寂しさ」なんだって。
わかっちゃったから、始末が悪い。
「むー…すっごい子供っぽい。なんか、悔しいなあ……」
自分の知っていた「オーディン」は、オーディンであって、オーディンではなかった。それとわかってからは、キュリオやフランシスコがしっかり警備して、ジュリエットには危害が及ばないようしっかりと守ってくれている。
けれど、自分はまだ小さくて、非力で、強くもなくて。
…そんな自分では、「ジュリエット」のそばに居ることも、できないのだろうか?
「アントニオ!」
「うわあっ!?」
唐突に下から呼びかけられ、ベッドの上で飛び上がる。今の声、は。
「ジュリエット?どうしたの?」
顔を覗かせると、「買い物に行くから、付き合ってくれない?」とにこりと笑って言われる。
「買い物……」
行きたい。正直を言えば、1も2もなく行きたい。…けれど。
(僕…強くないし。僕と二人で、なんて行かせてくれないだろうな…)
以前、モーガンと買い物に行くと言ったときは、キュリオがついていくと行っていたらしい。ならば今回も、当然キュリオかフランシスコがついてくるのではないだろうか。
「アントニオー?」
「あ、うん。今行くよ!」
それでも、やっぱりジュリエットと一緒に行きたい。…ジュリエットはオーディンではないけれど、やっぱり僕は、ジュリエットが大好きだ。
「いってくるね!」
「ああ」
「気をつけて」
ジュリエットが声をかけると、キュリオとフランシスコが椅子に座ったままで応えた。
「…?ねえ、ついてこなくていいの?」
上着をとりながら、座ったままの二人に聞く。
「? なんでだ。アントニオが一緒に行くんだろう?」
「おや、何かおねだりでもあるのかな」
「あ、いや、…ううん、なんでもない!いってくるね!」
ぱっ、と笑顔になったアントニオが、ジュリエットの後を追って飛び出していくのをフランシスコが笑みを浮かべたまま見送った。
「…全く、あのくらいの年の子は難しいですね」
「お前はアントニオの親父か?」
「嫌だなあ、まだ身を固めるには早いでしょう?」
「……俺が悪かった」



「ねえ、ジュリエット!」
「うん?」
まだ、日は高い。この間、木の実がたくさんなっているところを見つけたのだ。そこには動物たちもいたし、ジュリエットにも喜んでもらえるかもしれない。
「この後、時間があったら…」
「え、また秘密の場所を教えてくれるの?」
ぱっ、と顔を輝かせ、ジュリエットが笑顔で応じる。
「うん!みんなには内緒だよ」
「勿論!」



小さな秘密の共有で満足する自分は、まだまだ子供で。
力もないし、強くもないけれど。
それでも、ジュリエットのそばにいたい。…一緒に、笑っていたい。
だから僕は、僕なりのやり方で、僕にしかできない方法で。
ジュリエットの、笑顔を守ろう。




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