「…飲んだのね。」
“そいつ”が現れたとき、わけがわからず立ち尽くしているオレのことは、完全に無視したままで。灰原はただ一言、そう言った。





Silver bullet.






「…平和。同じ日本とは思えない。ここどこ?って感じだなー」
隣から聞こえた暢気な声に、コナンが半眼で答える。
「平和でもなんでもねーよ、これが日常なんだ。オメーらの方が異常なだけだろ」
「異常って…。手厳しいなあ」
は恨めしそうにコナンを見やったが、コナンはそれにわざと気付かない振りをしたまま立ち上がり、足下に転がってきたサッカーボールを蹴り返した。
「おうっ、サンキューコナン!」
「もっと公園の真ん中でやれよ、元太!」
車道に飛び出したりしたら、大変だ。そう気遣って言うと、左隣からふふ、と笑いが聞こえた。
「江戸川君は、相変わらずお友達思いね」
「…オメーもたまにはサッカーくらいやった方がいいんじゃねーのか?灰原」
そう返すと、再び芝生に腰を下ろす。すると今度は、右隣から快活な笑い声が上がった。
「あはは!志保ちゃ、…じゃなかった、哀ちゃんがサッカー…!想像つかない!」
目に涙を湛えて笑っているを見ているうちに、コナンの顔にも笑みが浮かぶ。
「…言っといてなんだが、オレもだ」
普段、パソコンに向かって座っているところばかり見ているせいもあるだろうが、ボールを追って走っている灰原の姿は想像し難いものがあった。いや、全く想像がつかない。
「あら、私だってサッカーくらいしたことあるわよ、?」
「へえー?じゃあお手並み拝見させてもらおうかな。そういえば、工藤君はプロ級なんでしょ?」
「………おい。」
コナンの出した厳しい声に、はっと口元に手をやる。
「…ごめん。江戸川くん」
「いい加減オメーも慣れろよな」
どこで誰が聞いているかわからない。今までの付き合いがある分慣れない、というのは致し方ないが、それでも訂正せずにはいられなかった。
「…っと、灰原のお手並み拝見はまた今度になりそうだな」
元々あまり天気は良くなかったが、とうとうぽつりぽつり、と雨が降ってきていた。それに気付かず熱中している三人に、遠くから声をかける。
「おーいオメーら、雨降ってきたから帰るぞー!」
それを横目に見ながら、が微笑む。
「…江戸川君、なんだか保護者みたいだね」
「ええ、本当に。」
後ろでそんなやりとりが行われていることに気付いてはいたが、コナンは特に何も言わずに黙っていた。
(ったく…)
もうすっかり馴染んでいる、これから同じ家に帰る同居人をちらりと見て嘆息する。…。自分や灰原と同じく、見た目は小学生だが見たままの年齢ではない。本来ならば同じ17歳、高校2年生だ。…底なしの明るさや雰囲気から見ても、黒ずくめの男たちの仲間だとは、到底思えなかった。
(でも、仲間なんだよな。まだ信じらんねーけど…)
…そう。
彼女もまた、APTX4869を飲んで小さくなった、稀有な存在だった。



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