知らない過去





「うわーもう!いい加減返して下さい!」
「何だよ、もーちょっと見せてくれてもいいだろー!」
ロイが執務室に入ると、中ではどたばたと皆が走り回っていた。
「…何をしてるんだ」
「あ、大佐!」
半泣きで追い掛けているのはフュリー、何かを持って逃げていたのはハボックとブレダ、それにファルマンだった。
「あのですねっ、写し」
「大佐ー、フュリー曹長の子供の時の写真!見ますか?」
フュリーの抗議を完全無視し、ハボックは手に持っていたそれをひらひらと振った。
「ほう。それは興味があるな」
「大佐ー!!?」
あっさり敵側に回ったロイを見て、フュリーが悲鳴を上げる。…どうやら自分は、助けを求める相手を間違えたらしい。今更なんのかのと考えても、無駄ではあったが。
「…これは…」
写っているのは、フュリー一人ではなかった。横に女の子も一緒に写っている。
「可愛いですよねー、となりの女の子」
しっかり『可愛いのはフュリーではなく』という注釈をいれている辺り、ブレダもちゃっかりしていた。
「あぁ…フュリー曹長、この写真は?」
「中央に移動するために荷物を整理してたら、出てきたんです」
言いながら、じろりとロイを睨む。『この事態を引き起こしたのは大佐のせいです』とでも言いたげだ。
「…おいおい、まさか私のせいだとは言わないだろうな」
フュリーの視線を受けてロイがたじろぐと、フュリーはそっぽを向いて「別に」と答えた。口から出る言葉と、脳内にある言葉とが一致していないのは明白だ。
「ふむ…」
だがロイの思考は、既に違うところに飛んでいた。この場にいない人物、…ホークアイのことだ。
「なぁ…中尉にも、こんな時代があったんだよな」
「え?」
「そりゃあ…まぁ…」
「あったでしょうな」
それぞれが思い思いに呟いた後、思うところはただ一つ。

見てみたいっ…!!

ロイは多少ヨコシマな想いを抱きつつ、他の三人は純粋な興味として。
「ぜってー可愛いっスよ!だってあの中尉ですよ!?」
「わ…笑った写真とかあるんでしょうか…」
「うわー!超見てみてー!」
「かなりの興味があります」
「だよな!」
「だあぁあぁぁ!!黙れ黙れ!!」
一気に盛り上がった場を、ロイが一喝した。
「何を勝手なことを言っている!仮にそんな貴重なものがお目見えしたところで、私以外のものには見せん!」
「…あ」
「大体何だお前ら自分勝手なこと言って!確かに笑った中尉とか見てみたいが、そんなもの見たら一生の運使い果たして死んでしまうぞ!」
「…大佐」
「えぇい黙れ…って、え…?」
ふいに後ろから聞こえた声に、全身をこわばらせる。同時に、背中には固い感触。
「…ちゅちゅちゅ中尉、その、これはだね…」
両手を上げて降参の意を示すロイの前で、他の者はビシリと気を付けをしていた。
(あいつら…!くそ、気付いてなかったのは私だけだというのか!)
どんな逆襲をしてやろうかと画策しかけたところで、今は自分の身を案じなければいけないことを思い出す。
「…大佐。不穏当な発言は控えた方がよろしいかと」
「は…はい…す、すみませんでした…」
だらだらと冷や汗を流し、先ほどまでの勢いはどこへやら、ロイは消え入りそうな声で弁解したのだった。





…ちなみに、未だにホークアイの幼い頃の写真を見た者はいない。




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