「勝元?」
「…おや、見付かってしまったな」
草むらの上の、こんもりとしたふくらみがゆっくりと起き上がった。
「…オールグレン殿か」
氏尾に見られたら大ごとだ、たるんでいると怒られる…そう言って、こちらを見るとにっと笑った。それを見て、オールグレンも笑みを返す。
「Is this seat taken ?」(座っても構いませんか?)
「No, it's not.」(ああ、構わんよ)
それを聞き、オールグレンも横に腰を下ろした。…穏やかに晴れた空で、本当に気持ちがいい。
「What are you doing ?」(何をしているのですか?)
オールグレンが問掛けると、勝元は何も答えず、再びごろりと横になった。
仕方なく質問を変え、再度問掛ける。
「What's on your mind ?」(何を考えていたのですか?)
「Nothing.」(何も)
ようやくそれだけ答えると、ひらひらと手を振って自分の横の草むらを叩く。…何も言うな、横になれと言うことか。
「…I don't know what's what.」(なにがなんだかわかりません)
「はははっ」
どさり、と横になると、…空しか、見えなくなった。
「Do you understand ?」(わかったか?)
からかうように聞く勝元の言葉に、オールグレンも今度は了解の意を示した。
「Yes, sir.」(わかりました)
確かに。これは…言葉で表すのは、難しいかも知れない。
ただただ、空を眺めているだけだ。…だが、それだけなのに、何かとても落ち着いて…穏やかな気持ちになれるのだ。
「たまに、な…こうして、ただ空を眺めたくなるのだよ。ごろりと横になってな」
言って、おっと、と慌てたように付け加えた。
「Sorry, get it ?」(すまない、わかったか?)
「はい…なんてな、く」
それを聞いて、勝元は思わず吹きだした。
「はは、日本語がうまくなってきたじゃないか。正しくは“なんとなく”だ」
「なんとなく?」
「そう」
「なんとなく、わかりました。空を…見る、と、気持ちが…peacefulに、なります」
「…そうか」
わかったか。
嬉しそうに言って、目を細める。言葉だけではなく、自分の気持ちも確かに伝わったと。…それがわかって、嬉しかった。
「もう少し、こうしていようか」
「はい」


…だがそれは、氏尾の乱入によって叶わぬものとなる。




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2004.6.4



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