そうだ、お花見へ行こう





「春!うららか!快晴!気温良好!……とくれば!」
「変質者」
「花粉」
「五月病カウントダウン」
「無能」
「最後に無能って言ったやつ誰だ!!クビだクビっ!!…じゃ、なくて。なんだね君たちは。夢のない大人の見本集団か」
がっくりと肩を落として言ったロイを見て、ハボックがへらりと笑って言う。
「今更なに言ってんスか」
「貴様ぁ!今すぐ射撃場へ行け中尉の的になれ!!」
胸倉を掴んでがくがく揺さぶるロイを、ブレダが必死になだめる。
「冗談、冗談ですよ!ハボだってわかってますから本当は!」
「…本当に?」
疑わしげに聞いたロイに、ハボックも軍服の乱れを直しながら苦笑して言う。
「大佐…したいんでしょう?アレ。」
「したい!!」
「じゃあまずは中尉の許可が必要っスね…あの仕事の山じゃあ」
ハボックが皆まで言う前に、ロイは自席へとすっ飛んで行きペンをとった。
「うおおおおおおおおおおおお!!!」
「す…すごい!!」
「腕の動きが早すぎて、まるで千手観音のようだ!!」
「背後に焔が燃えているーっ!!」
「大佐!発火布つけたまま激しく動かさないで下さい!」
「ってあの焔本物!?消火器どこだーっ!!」
どったんばったんしながら、ブレダがこそこそとハボックに話しかける。
(…つーかよ、ハボ、大佐、自分のが上官だって忘れてねーか?)
(黙っとけって。…肩書きと上下関係は必ずしも一致しねーんだから)
(ははは…)
鬼気迫る表情で仕事を片していくロイを横目に、ブレダはこっそりとため息をついた。



「おぉ…これはまた、見事なものだな」
見上げてそう呟くと、ロイはしばし言葉を失った。…他に、言いようがなかったのだ。
「大佐。あちらで、ブラックハヤテ号が場所取りをしておりますので」
「ん?おぉ!」
シートの上にちょこんと座ったハヤテ号が、ホークアイを見つけてちぎれんばかりに尻尾を振った。場所を奪おうと近付く花見客には、低く唸って対抗していたらしい。
「おーいお前たち!こっちだこっち!」
「へいへい」
「…少しくらい荷物持ってくださいよ大佐」
酒やら弁当やらを抱えたハボックたちが後に続く。
ロイの異常なまでの頑張りのお陰で、今日一日、揃って休みを取ることができたのである。軍部としての花見もあるにはあるが、それは花見という名の接待やら腹のさぐり合いやら媚び売り大会やらになるので純粋に楽しむことはできない。
「…さて!まずは、乾杯といくか」
とくとく、と音をたてながらロイが酒を注いでいく。
「大佐、私は」
「なに、今日くらい構わんだろう」
「しかし」
ロイが強引に注ぐと、ホークアイも仕方なく観念してグラスを手に持った。
「それじゃあ…」
そう言って、ロイがグラスを掲げた瞬間。
「「かんぱーいっ!!」」
「…ってお前ら!それは私の役目だぞ!?」
「大佐〜、細かいことは言いっこなしっスよ」
「そうそう!無礼講、ですよ」
(それは普通、上の立場の者が言うものだ…!)
早くも酒盛りの気配を見せ始めた面々は放置することにして、ロイはホークアイに向きなおった。
「中尉……っ?」
呼びかけ、ぎょっとする。
「たい………さ?」
トロン、とした目でこちらを見たホークアイは、明らかに酔っていた。まだ、一杯しか飲んでいないはずなのに。
「…っ、原液!」
度数の高い酒を、割らずに飲んでしまったのだ。よほど酒に強いものでない限り、ホークアイのようになってしまうだろう。
(それに…しても…)
どんちゃん騒ぎをしている面々のことは完全に忘れ去り、ロイはちらりとホークアイへ目をやった。
(色っぽい…な…)
慌てて視線を外し、またちらりと目をやる。そんな自分が嫌になったりもするが、ここは本能に忠実になっておこう。すすす、とホークアイに近付いてみる。いつもなら突っ返されるか銃を向けられるかだが、今日は……
「…たい、さ?どうかなさい…ましたか…?」

ずっきゅーーーーーーーーん。

ずざーっとシートをはみ出して飛び退り、どっどっどと激しく打つ心臓を必死になだめようとした。
(うわー!うわー!うわー!)
潤った瞳で、微かに微笑を浮かべながら、そんなことを言われてしまったら。
「リ……!!」
「ウ〜〜〜〜〜……」
「………え。」
抱きつこう、とした先に待ち構えていたものは。
「ブ…ブラック、ハヤテ号…?そこを、どいて…」
どいて、くれないかな?
必死に笑みを浮かべて言ったものの、主人の危機をいち早く察したハヤテ号は動かなかった。
…そして。
「ガウガウガウガウガウガウガウッ!!!」
「うわーーーーー!!」
飛び掛ってきたハヤテ号から全力で逃げつつ、ロイは悲鳴を上げた。…だが、どんちゃん騒ぎをしている者たちの目には止まらないらしい。
「なんか賑やかだな〜」
「ははは〜、花見だからな〜」
「うふふ、今日は何だか気持ちがいいわ〜」
「なんで俺だけこんな目にーーー!!!」
…結局、ロイが力尽きるまでこの追いかけっこは続いたのだった。




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「まめのあしあと。」さま5万打記念に進呈させていただきました。なんかもう報われないロイばっかりでごめんなさいなんですが、こんな二人が大好きです(笑)本当におめでとうございましたー!今後の更なるご発展をお祈りしつつvv

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