ちょきん、ちょきん。





「…ねえ、兄さん」
「んー?どうかしたか、アル?」
「お願いが、あるんだけど」





「…もったいねーなぁ」

ちょきん、ちょきん。

金属質な音が響く中で、アルが苦笑しながら返した。
「女の子じゃないんだから、兄さん」
「そーだけどさぁ…」

ちょきん、ちょきん。

「…いいんだ、もう」
「え?」

ちょき、

ぱらぱらと、金の糸が…兄のそれより、いくらか暗めの色をした髪の毛が、睫にぶつかりながら落ちていく。首周りも少しちくちくしたけれど、今はそんなことどうでも良かった。
「…もう、伸ばす必要なんかないんだ……!」
ああ、変だな。世界がだんだん滲んでゆく。
「…うん」

ちょきん、ちょきん。

再び金属質な音が聞こえ、睫についた髪をはらおうとしてようやく気付く。
…ああ、ボク、泣いてるんだ。
「だって、」
「うん」
「会えたから…」
「…うん」

ちょきん、ちょきん。

「兄さんに会えたから、もう、」

…ちょきん。

「っし、終了。…出来がイマイチなのは勘弁しろよ?髪切ったことなんかないんだ」
どんな頭になっているか、少々不安になってきた。…だが、どんな髪型になっていたって、きっと自分は怒らないに決まってる。
「…ねぇ、兄さん」
「うん」
ごしごしと目をこすって、顔を上げる。なんでボクは、泣いたりしているんだ。泣く必要なんかないじゃないか!
「ボク、髪伸びるの早いんだ。また切ってくれる?」
「…オレ以外に、そんな素晴らしい切り方できるやついないだろ?」
「…うんっ!」
ふいに視界が遮られ、ずしりとした重みを感じた。エドが、自分の頭の上に乗りかかってきたのだ。
「…兄さん?」
「動くなよ、バカ」
小さく、本当に小さくだけど、兄さんの肩が震えていて。…ボクは、嬉しいような切ないような、なんとも言えない気持ちになった。自分が泣きそうになっていることも、今度はちゃんとわかっていた。
言われるまでもない。動くつもりなんか、はなからない。
「…動くもんか。バカ兄」
「……へっ、言うじゃねーか」
くつくつと、含んだ笑いが頭の上で聞こえる。くすぐったいけど、気持ち良い。
「ねぇ、兄さん」
「あんだよ?」
「…ううん、なんでもない。」
今はまだ、何も言わなくていい。これから色々なことを、話していけばいい。
「言いたいことがあるなら、言えよなー」
「うわっ」
くしゃくしゃと頭を撫で回され、悲鳴を上げる。なんでもないことのはずなのに、やっぱり涙が出そうなほどに嬉しかった。



かしゃん、と乾いた音が響いて、エドが持っていた鋏が、床へと落下した。




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