なんだか今日は、やけに風が強い日だ。
(あ、台風来てるのか。…6号?いつの間にそんなに来てたんだろう)
携帯を開いて、天気予報を確認。全く、便利な時代になったものだ。
ウィーン、と愛想のない音と共に自動ドアが開いて、中から赤井が出てきた。
お互い買いたいものがあったので、店の外で待ち合わせていたのだ。
「待ったか?」
「待った」
「…そういうときは“待ってない”っていうもんだと言ったのは、お前だろう」
「あれ?そうだっけ」
デートに行くのに、公園で待ち合わせをしていた頃。「ごめん、待った?」と聞いたに、愛想もへったくれもなく「ああ、待った」と返されたときに言った言葉だ。もはや過去の話でしょ、なんて言えば、それもそうかと返される。
「帰ろう。天気、悪くなるみたい」
「ああ、そうだな」
そうして歩き出すときに、さり気なくの手から荷物をとって。
(…変わらないんだよね。)
見落としてしまいそうな、瞬間の優しさ。
それは、ずっと変わらない。





「…雲行き、怪しいなー」
「天気が悪くなるんだろう?」
「うん、台風来てるって。」
並んで歩道を歩く。
そんなときだって、いつもさり気なく道路側を赤井は歩く。
「もうそんな季節か」
「ね。台風、っていうと夏が近いんだなー…って思う」
「そうだな。…台風の中に飛び込んでいくなよ」
「いかないってば!」
…以前、写真で“台風の目”というものを見た。
ぐるぐると空に雲がうずまいている中、ど真ん中だけ不思議と青空で。
その写真に驚いて、「いつか実際に台風の目を見たい」と熱心に赤井に話したことがあった。…どうやら、覚えていたらしい。
「本当か?」
「本当だってば」
反抗すると、くつくつとおかしそうに笑う。
…からかわれたらしいと気付いて、はむくれて一歩先を歩きはじめた。

ビュオッ!

「!」
…一際強い風が吹いて、がとっさに目を瞑った瞬間。
「今日の夕飯のメニュー、聞いてなかったな」
なんていいながら、赤井がすっとの斜め前に立った。
…同時に、風もやむ。
?」
ぽかん、とした顔で赤井を見るに、赤井が不思議そうに声をかける。
「ねえ、秀一、今……」
「うん?」
きっとこれもまた、彼の瞬間の優しさ。
それに気付き、は満面の笑みを浮かべた。
「今夜はフルコースっ!」
「フルコース…?」
「目玉焼きの!」
「そんなフルコースはいらん」
ぎゅ、っと腕にしがみついて、頬を寄せて、微笑って。



…あなたの優しさは、とてもさり気ないの。
けれど私は、その全てを感じていたい。 だから、あなたから……





目 が 離 せ な い


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