自覚の有無ではなく。 気付いていたとしても、認めては、いけない感情がある。 (っはぁー…) 終話ボタンを押すと、ひとつ大きなため息をついて携帯をベッドの上へ放り投げる。 「予行演習……ね…」 そうして口にすることで、そうして自分に暗示をかけることで、かろうじて繋ぎ止めている何かがある。そうしないと、自分の中の何かが壊れてしまうと知っていたから。 「大丈夫、うまくやれる。いつだって俺は、そうやってうまくやってきただろ」 自分の気持ちに嘘をつくことも。 偽りの自分を見せることも。 慣れたものだ、今更どうということもない。 ……けれど。 ただ1人だけ、そんな自分を見せていない相手がいて。 よりにもよって、…あいつが、その“ただ1人”だなんて。 (もしもこの世に神様ってやつがいるなら、チョップなんかじゃすまさねーぞ) そんなことを思いながら、馬鹿馬鹿しさを覚えて枕に顔を埋める。 神なんて、いてもいなくても関係ない。 …幼い頃に出逢った、小さな人魚姫。 確証もなかったのに、こうして再び巡り合えた奇跡とも呼べるこの運命を…自分は、自ら手放してしまったのだ。 「俺…大丈夫、だよな…?」 明日、あいつと会って。 「うまく…予行演習、付き合ってやれるかな」 あいつに不信感を抱かせずに済むだろうか。 「奴のことを羨ましいとか、思っちゃったりすんのかな」 そんなこと考える自分は、すっごくかっこ悪ィ。 「……あいつの、」 ぼけーっとしてるけど、抜けてるようでいて、大切なことはいつだって見逃さない。 そうして何度、追い詰められた自分を救ってくれたか分からない、太陽みたいな。 …の笑顔を、直視できるのかな。 「また明日、…とか、言っても、いい、のかな」 自分に区切りをつけるために、応援してやるっていったはずなのに。 「くっそー…腹立つ。明日顔見たら一番にチョップしてやる…」 どうしてだ。 苦しい。 ……俺の中が、こんなにもおまえでいっぱいだってこと。 俺だって、知らなかったんだ。 「……っ、くそ…!!」 自覚してはいけなかった。 『佐伯くん、大丈夫?さっきから黙ってるけど……。』 『ああ、うん……なんでも。もう、お前ん家か。じゃあ。』 気付いてはいけなかった。 『うん。ありがとう。それじゃ……。』 『あのさ!行きたいとこあったら、また、言えよ?じゃあ。』 蓋をしていなければ、いけなかった。 『ありがとう。うん、そうする。それじゃ……。』 『それで俺、水、金は、どうしてもダメなんだ。知ってるか、知ってるな……じゃあ。』 けれど、一度あふれだしてしまった想いを、こぼれてしまた本音を、願いを。 『佐伯くん……ホントに大丈夫?』 『大丈夫。多分…… じゃあ、また。』 「大丈夫なわけ、ないだろっ……!!」 …戻すことは、できない。 抑えることは、できないのだ。 (俺はあいつの、) 親友で。 (あいつの恋の応援を、) しなければならない。 だけど、この胸の内に溢れるのは。親友としてのそれだと、男女間の友情だというには無理がある、どうしようもない……愛しさ。 相手の幸せを願うことが相手を想うことだとしたら、自分のこの想いはなんと汚れているのだろう。つらい顔は見たくないのに、幸せそうな顔を見ると胸が張り裂けそうになる。こんな汚れた想いを抱いていると知ったら、あいつはなんと言うだろう? (―――けれど、) こんなに汚い感情を持っているなんて、本来の形とは、ひどくかけ離れているかもしれない。 …かけ離れて、いるのだとしても。 けれども これは 恋 ---------------------------------------------------------------- BACK |