居残り授業 / 化学





「それじゃあ始めようか。」
多分、世の中で一番教師に向いていない人が教壇に立っていると正直に思う。
大体レポート提出が出来なかったら居残り実験なんて、脅し以外の何がある。そういった気持ちで取りかかったら案の定失敗した挙げ句本気で居残り実験決定。正直有り得ない。
流石昨日占いで最下位だっただけの事はある。席替えはセンターだし転んでお弁当ぐちゃぐちゃになるし折角保健室避けていたのに黒羽先生に絡まれるし。愛の告白させられるし。
もう散々。
今日はあまりにも悔しくて占いを見て来なかったのが間違いだったのだろうか。まさか昨日の結果を引き摺っているわけじゃああるまい!
そう信じたい。

「で、また失敗したいのか?」
「いえいえ滅相もございません!」
ぶんぶんと首を振れば萩原先生は何故か優しく笑った。見方を変えれば諦めたようにも見える。と、ふと化学室の扉が開く。

「よお。居残り実験だって?」
笑いに来ただけですか、松田先生。
じっと睨めば松田先生はおお怖。と、心にも思ってもいない事を口にして肩を竦めて見せた。ちくしょう揶揄いやがって。っと、ついつい言葉遣いが悪くなってしまいました。

「どうっせ居残りですよ。本気で居残りさせると思ってなかった私が悪かったんでしょうけどね!」
半ばヤケになって言い返せば松田先生はくすくすと声を立てて笑った。

「ま、このクソ真面目男が冗談を言わないっつーのは憶えておいて損はないな。まあ頑張れよ。」
と、ひらひらと手を振って松田先生は何故か化学室を出て行った。もう本気で何をしに来たのか判らない。まさかとは思うがひやかし!?いやいやそれは…

「…。」
「は、はいいい!」
「早く準備をしろ。ビーカーとビュレットは此処にあるものを使えばいい。」
「…はい。」
萩原先生とだと楽しくお喋りをしながら実験、というわけにはいかない。大真面目に取り組んであっさりと終わるのがオチだろう。
色気の欠片もない放課後の授業は黙々と進む。薬品臭が漂いはじめる。
しばらくして、室内にポタリ、ポタリと水滴の落ちる音がし始めた。その様子を2人でじっと見詰める。実験だから仕方無いとは言え顔が近すぎる。心臓に悪い。

「閉じて。」
「あ!はい!」
コックをひねって液の滴下を止める。ビーカーには淡い桜色の液体。ようやく成功だ。

「良かったー。今度は成功ですよね!」
「ああ。ここまで綺麗に出来た奴は他にいないな。」
珍しくにこりと微笑んだ萩原先生に一瞬気をとられる。ああ、やばい。本気でやばい。
いやいや、でも私には、ね。うん。

「あとはレポートに書くだけだ。」
「はい。」
素直にプリントを受け取る。ああ、きっと今日の占いは1位だ。絶対そうだ。恋愛運絶好調なんだきっと。
こんな美味しい体験他にな…

「ちょっと萩原せんせーーー!!!!」
………出た。

「俺のに手ぇ出すなー!!!苛めて良いのは俺だけなの!!!」
あの、それはどうかと思います、黒羽先生。
呆れ半分の萩原先生にまるで小型犬のようにきゃんきゃん喚く先生を横目に、気にしないふりを敢行してレポートを書き続けた。




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はっはっ萩原センセー…!!私の読みたかったものが今ここに!!なんかもう仕草とか口調とか、いちいち萩原らしさがにじみ出ていて終始ドキドキしっぱなしでした。まさにこんな感じだよ萩原先生!
も、本当、あらゆるツボをことごとくついてくださりありがとうございました…!ちょっと読んでみたいなー読みたいなーうふふとか言ったら本当に書いてくれちゃったほーちゃんが大好きです。愛してる!
ほーちゃん、本当にありがとうございました…!青山学園は今日も大騒ぎだ!(笑)





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