飾らないなんてそれは無理で。 どう振舞ったってそれは120%作り物で。 それでも、誰よりも君に届けたいものがある。 Anniversary 多分こういうのを一目惚れと言うのだと思う。 例えば偶然夜間飛行の合間に降り立ったマンションの屋上にまさか人が居るなんて思わなくて。 そしてそれがまさか自分と同じ歳くらいの女の子、だなんて出来過ぎた状況に更に拍車をかけるように彼女の瞳には涙が見えた。 勿論最初はただ必死だった。自分が泣かせたわけではないけれど、それでも深夜に女の子が屋上で一人泣く状況というのはよほどのことだろう。 「これは失礼致しました。貴女様のお邪魔をするつもりでは無かったのですが…。」 「…別に…。」 その少女は素っ気なかった。そして薄らと赤みがかった目元を隠すように俯いて嗚咽を止めた。 顔は…よく見えなかった。けれど、美人や可愛いというタイプでは無い。ごく普通の少女。 「出来ればその涙の理由をこの侵入者に話しては頂けませんか?神父やカウンセラーではありませんが、他人に全てを吐き出してしまうというのも立ち直るきっかけになるのですよ?」 「誰があんたなんかに話すと思うの、怪盗KID。」 「…ご存じでしたか。」 「当たり前でしょ?東京に住んでれば知らない人は居ないわ。」 「それは光栄の至りです。」 そっと一礼して彼女に近付く。こうして同年代の女の子に一蹴されるのは、この姿では初めてかもしれない。 多分彼女もこの後の行動を予想していたのだろう。一瞬身を後ろに退いた。けれど、それを逃さなかったのは他でもない自分で。 「お近づきの印に。」 そっと手の甲に口付けた。 「…まるで中世ヨーロッパの騎士ね。漫画にありそうだわ。」 「私は現実世界の、生身の人間ですよ。でなければ…」 「…でなければ?」 「この温もりは感じられないでしょう?」 そっと彼女を見上げる。口元に手を当てて何かを我慢しているような、そんな仕種。 「あの…」 「…嫌な男。無意識とは言え人の弱い所にずけずけ入り込んで来る。」 ふっと、月光が雲の合間を縫って綺麗に彼女を映し出した。 彼女は微笑っていた。まるで、何かがふっ切れたような、そんな笑顔。 「ねえ、約束しましょう。」 「約束?」 「貴方が予告状を出したその日には必ず此処に来ること。」 「…えぇ。お約束です。」 そう言って、彼女との妙な関係が結ばれたのだ。 +++ 空を見上げる。今日は晴天。星がぽつりぽつりと何となく見えるなあ、と、ぼんやり空を眺めていた。 けれど探しているのはそんな何年も何十年も何万年も前の光では無くて。 白い翼を探す。今日は新聞に逢瀬の約束が載っていた。 学校で彼の話題が出る。その度に私は優越感に浸ることが出来る。その理由がこれだ。 深夜の屋上、真夜中の逢瀬。 彼の素顔を知っているわけでも、素性を知っているわけでもない。嘘と作り物で固められたその存在を他人より近く感じているだけ。 それだけで満足だとは言わないが、それでもKIDの素性を予想しながらきゃあきゃあはしゃぐ友人達を見る度に気分が良くなった。 少なくとも彼は、自分と同年代であること。それだけは間違いない。 星の数程居る女の子の中で自分が偶然という名の出逢いによって彼と引き合わされて、少なくとも自分は何時しか彼に想いを馳せるようになって。 その関係を初めて今日が丁度10回目の約束。 「…健気だな。」 誰が、とは言わない。認めない。 それでも何時と明確な時間を指定しないその時をじっと待った。 +++ 今夜で、何度目になるのだろう。 夜間飛行の合間にふと考える。けれど答えが出て来ないのは…きっと、自分がそれ程数字を気にしていない所為だと判る。 彼女にとっては重要かもしれない。けれど自分にはどうでも良いことで。 回数じゃなくて、重要なのは会話であり仕種であり雰囲気であって。 最近は、彼女の仕種や態度で薄々感じている。自分に想いを寄せているんじゃないかって。 自惚れとかそういうのじゃなくて、空気で判る。けれど、それを嫌だとは微塵も思わない。 素直にそう言えたならどんなに楽だろう。けれど、こんなに飾り立てた自分が飾らない言葉を語ることは出来るのだろうか。 こんな素顔をも隠した姿では何を言っても信じてなんて貰えないことは判っている。そして、彼女が見詰める自分は作り物だって、何時かは教えなければならない。 それが何時になるのかは判らない。ただ、こうして時が経つごとに、逢瀬の回数を重ねるごとに後ろめたさが重圧となってのしかかるだろう。 何時か、未知数の時。 それが、今なのか来週なのか、1ヶ月後なのか1年後なのかは判らない。 「…今日、かな。」 満月が綺麗だった。星が何時もよりたくさん見えた。 たったそれだけだった。それなのに、彼女は何時もより何処か雰囲気が違って見えた。 「何時もお待たせして大変申し訳有りません。」 「いい。人を待つのって結構好きなの。」 ふわりと舞い降りれば彼女はそっと近付いて来てくれる。お互いに何となく顔が見える位置まで接近する関係にまでなったのだ。 「貴方だって、誰かが待っているところに下りたほうが良いでしょう?」 「…えぇ。格別ですね。」 そう言って手を取り甲に唇を寄せる。これが挨拶の代わりだ。 自分は、あくまでも彼女に忠誠を誓う騎士で。彼女は逢瀬を楽しみにしている檻の中のお姫様。 本当に下手な芝居のシナリオだなんて自嘲したこともあったけれど、今の自分には丁度良い。 芝居がかっているくらいが、きっと自分には心地いいのだろう。 「…今宵は月が綺麗ですね。」 「満月の日に晴天、なんてちょっと嫌。暗雲めいた黒い雲がかかっている赤みがかった月のほうが私は好き、かな。」 「月が最も妖艶に燃え上がっている時ですね。」 「ほんと、言葉全部がシェークスピアの台本の台詞みたいな人ね。」 くすくすと笑う。けれど決して嫌味なんかではなくて、けなしているわけでもなくて。 そう言いながら顔を地面に向けて視線を落とすのは全て照れ隠し。判っていて下を向かせる自分もどうかと思うが。 「…月光というスポットライトを浴びていられるうちに貴女に言わなければならないことがあります。」 「なあに?」 じっと、2人の視線がかち合う。片目はモノクルで隠されているから、負担は少しだけ軽減されるけれど。 「貴女を、愛しています。」 全てお芝居で済ませてしまえれば、どんなにか楽だろう。 けれど、拒絶されたらきっと自分は耐えられない。そんな、身勝手な自分を嘲笑うように月が輝く。 包み隠す雲は、無い。 「…とても、嬉しい、です。」 そう言ってモノクルに手をかけた彼女を俺は止めなかった。 dear Utano ---------------------------------------------------------------- 眼鏡ズでも十分素敵満載だったのに、「眼鏡ズはフェイント」とかいってこんな素敵ブツまでくれちゃいました。も、マジ本当にありがとう…!!あれっ目からの分泌物で前が霞んで見えないや(うざ) 大好きなKinKiソング、大好きなKID様。大好きの相乗効果で大大大好き!でもほーちゃはもっと大好きです。(ゾウさんのほうがもっと好き的に)本当にありがとうございましたー!! BACK |