「……で、この手は何かな?」
「見て分からない?今日は何日かな、ちゃん。」
「記憶に間違いがない限り、2月14日。でも、快斗に手を差し出される理由はないよ…?」










「好き」のカタチ











工藤家のリビングでソファーにどっかりと腰を下ろしたまま新聞を読み耽っていたら、あまりにも隣で小煩く快斗が騒ぐので、仕方なしに新聞を降ろすと、まるで子犬のようにじゃれついてきた。
嘗て、巷を賑わした怪盗KIDからは、想像も出来ないほどに無邪気な表情。一体、どれだけの顔を持っているのだろうかと、快斗の喜怒哀楽を目の当たりにするたび考えてしまう。

「えーっ、そんな!2月14日だよ?バレンタインデーだよ?義理でもいいからチョコレートをください!」
「――――アホか、お前は。」
「あ、新一お帰り〜。さっき、蘭ちゃんが愛情篭ったチョコレート届けてくれたよ。今日は園子ちゃんと遊びに行くから来られないってー。」
「…甘いの、苦手なんだって何度言ったら分かるんだ、アイツは。…、お前が食べていーぞ。」
「へいへーい。」

左手をヒラヒラと振りながら2階へ上がっていく新一の背中を、苦笑交じりに見つめる。
甘いのが苦手な新一がチョコレートを食べないことくらい、蘭はお見通し。だから、私の手に渡ることを想定して、毎回私の好きなレオニダスを買ってきてくれる。…本当に、どこまでも出来た彼女だ。

ちゃん、話がそれてるー。」
「…ん?何だっけ??」
「あ―――、もうっ。いつもこれだ!!」

ぶぅ、とムクれてソファーに体を沈めていく。
クッションを抱えて蹲る様子が何とも言えず可愛らしくて、思わず吹き出してしまった。

新一が、最後まで捕まえることの出来なかった唯一の存在。
己の信念を貫き、決して妥協することのなかった、誇り高き怪盗。
最初に会ったのは、新一に無理やり現場へ連れて行かれたとき。兄である新一の探偵バカにも程があると思ったけれど、怪盗KIDと名乗るその男の自己陶酔振りときたら…。あまりのフェミニスと振りと気障ったらしさに、全身が粟立つほどだった。
それでも、新一とよく似た蒼眼の強さに惹かれたのは、快斗の内に秘められた情熱と、何者にも侵されることのない信念を垣間見てしまったからなんだろう。

不貞寝を決め込んだ快斗の様子を横目で見ながら、新一の食事を温めるため台所へ向かう。
冷蔵庫に隠しておいた小さな箱は、どうやら見つかっていないようだ。すっかり冷め切ったスープに火を掛けながら、私は小さく笑みを零した。新一にさえ、あげたことのない手作りのチョコレート。お菓子作りは得意じゃないから買ったものにくらべたら見劣りするのは否めないけれど、その分愛情が篭っているのだから多めに見てもらおう。

「…ったく、感謝しなさいよね。」

少しの変化にも敏感な新一の目を誤魔化しながら作るのは、慣れないお菓子作りよりも大変だったのだ。
いつも、こっちが恥ずかしくなるくらい、愛情を言葉にして表してくれる快斗の気持ちに、素直になれない自分が恨めしい。…だから、バレンタインデーなんて、今までの自分だったら絶対に乗ることのなかった世の中の風習を利用させてもらおうと思った。
今さら、好きだなんて言えない。だけど、「好き」と言い続けてくれる快斗に、自分の気持ちを伝えないのは、やっぱり卑怯だと思うから。1年でたった1日だけ。チョコレートという手段で気持ちを表現できる、今日という日に。

「ご飯できたよー。」

着替えを終え、1階に降りてきた新一と何やら楽しげに話をしている快斗に声を掛ける。
腕によりを掛けて作った夕食に、快斗の機嫌が直るのも時間の問題。

食後のデザートは、もちろん……



THE END



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「Sanctus」様、2周年記念フリー配布で頂いてまいりましたv
可愛い快斗にめろめろですー!!新一がこれからの障害になっていきそうだなあとかにやにやしながら妄想してみたり(やめたまえ)。快斗、早くチョコもらえるといいねvv

本当にありがとうございましたー!!