ふわり、春の風がキミの髪を揺らす。
もう、と少し頬を膨らませて髪を書き上げる仕草。
それを見ているだけでこんなに、ドキリとする。

もういいかい

ふわり舞う春風に乗って、君を捕まえたい。





捕まえた 捕まった 捕まえて







「ねぇ、ねぇ、快斗。」
「あんだ・・・よ。」

ククク、と楽しそうに笑って、引っかかったと言う。
小さい頃によくしていた、頬に指を当てて、振り向いたらその指が頬に刺さるといういたずら。
この年になって引っかかるなんて、と笑うを見ながら思う。

「引っかかったね。」
「うっせー。」
「あ、やだ、快斗ってば不貞腐れちゃう?ごめん、ごめん。」
「ずいぶん暇そうだな。」
「だって、次の講義取ってないんだもん。」

90分間一体なにしよう、と参考書を閉じてロッカーへ向かう。
教科書を持って移動するのはたくさんだと、荷物をその中へ放り込んで鍵をかける。
鍵の先で揺れる良く分からないマスコットは、買ったばかりののお気に入りらしい。
間抜けな顔がいいでしょ、と自慢げに見せられて思い切り戸惑う平次には噴出した。
まあ、その後彼は幼馴染に怒られていたのだけれど。


「快斗は、次取ってる?」
「いや、俺も取ってない。」
「何だ、奇遇じゃないか!」
「・・・ナンダ、その言い方。」

この近くを探検しようよ、と提案する彼女の案に別に反対する気もない自分は頷いた。
今日は小春めいた天気で外は暖かい。
着ているジャケットも暑いくらいで、はジャケットのボタンを全開にする。

「まずは、自転車でこの坂下りるか?」
「・・・・イ・ヤ。」
「何でだよ、ぜってー楽しいって。」
「だって、だって!快斗の運転が信用できない!」
「言ってくれるじゃねえか。」

ぜってー、乗っけてやる、とぎゃーぎゃー騒ぐをひょいとサドルに乗せる。
ああ、コイツもやっぱ女なんだよな、とその時再認識。
掴んだ腕とか、引き寄せた腰とか、やばいくらいに細いと感じた。
心拍数が上がる。

「ちょっ、快斗、あたしが運転?」
「そう、俺の運転じゃ不満なんだろ?」
「っていうか、何で坂下るのよー!」
「んじゃ、やっぱ選手交代。」
「は?」

俺が運転、と伝えると渋々彼女は自転車から足を離す、きっとその時逃げ出すんだろうなと思って
口よりも先に手が動いて、目の前を横切る手を握る。

「・・・コレ、何かしら。」
「逃げるなよ。」
「・・・それ、何か犯人に言う台詞みたいなんだけど。」
「ま、ある意味言いだしっぺの犯人はお前だけどな。」

あたし、外に行こうしか言ってない、という言葉なんて気にも留めずにサドルに腰を下ろして
の両手を掴んで、後ろ、と伝える。
えーっと、不満そうな声のまま器用に足を引っ掛けて肩に手が乗せられる。
怖いな、と前かがみになる彼女からふわり、と甘い香りがしてヤバイ、と心臓が高鳴る。




「そんなんじゃ、落ちるぞ。」
「落ちるとか言うな、バ快斗。」
「・・・バ快斗言うな。」

怖いんだから、怖いんだからね、という言葉の裏づけで手のひらに力が入っているのが分かる。
役得じゃん、と思う自分をエロオヤジかと、もう一人の自分が笑う。
(ま、たまにはこんな役得があってもいいよな。)

行くぞ、とペダルを踏み込んでヨロヨロとした運転のまま門まで向かう。
緩やかな坂の後平坦な道があって、その後にわりと急な坂が出現する。
ひーっ、というの声に不謹慎ながらも笑ってしまうと、耳元で笑うなと言われ、逆に自分がゾクリとなる。
大丈夫だよ、とポンとの手のひらをたたいてペダルをこぐ足に力を入れた。




「青空だね。」
「だな。って、上向いたりすんなよ。危ねえぞ。」
「アイアイサー。」
「・・・さっきと別人。」
「だって、坂終わったんだもん。」

どうだった、と聞く声に楽しかったと笑い声のまま言われる。
きゃーっっという声と首に感じた彼女のぬくもりに坂の恐怖を感じることなく気がつけば下り終えていた。
ふらふらと細い道を進みながら、風が気持ちがいいね、と言い合いながら迂回して元の位置まで移動する。

「ねぇ、快斗ー。」
「んー?」
の声に返事をしながら過ぎていく景色を見る。
自転車の速度も割りと落ち着いてきて坂の効果も薄れたようだ。
後ろの彼女の手に力が少し入ったのを感じて、まだ怖いのかと振り向いた時だった。


「あたし、快斗が大好きっ。」
「耳元で・・・って・・・はぁ?!」

すぐに反応ができなくて、耳元に声の余韻が残っていてその言葉を理解するのに時間がかかった気がした。

「ぎゃー!ちょっと、快斗!前、前!!」
「うぉっ!!あ・・・っぶねぇ。」
「安全運転でお願いしますよ、運転手さん。」
「・・・っていうか、。」
「はい。」
「それ、本気?」
「うん、本気。」
「今更、ウソでしたなんて言うなよ。」
「言えるわけないじゃん。」

精一杯の勇気を振り絞ったんだから、と振り向けば真っ赤な君がいて嬉しくなる。
兄弟みたいな、じゃれ合ってる二人と言われ続けたけれど本当は期待してた。
君からのその言葉。
こんなにも君が触れていたところが熱くて、こんなにもその声に緊張しているから。

「ホントはずっと、言いたかったんだよ。」

そんな風にしおらしく、赤くなるを見るのは新鮮で、それが可愛くて、可愛くて。
裾を掴んで、緊張しているのが分かって、さらに愛しいと思えて。
「このまま抜け出してみる?」
「へ?」
「名探偵にでも代弁頼んでさ。」
「・・・高く付きそう。」

でも悪くない、と満面の笑みを浮かべる彼女。
やっと、手に入れた。
言葉にしなくても伝わるけれど、言葉で紡ぎだすと想いの中の嬉しさが増える。
不確かなものが確かに変わっていく。

「捕まえた?」
「何を?」
「・・・・快斗を。」
「まぁ、な。」

最高の言葉、最高の笑顔、僕は君に捕まった。
本当は、とっくの昔に捕まっていたけれど。
ふわり、桜の花びらが舞い落ちた、春の訪れと一緒に君を捕まえた。
もう、離してやんねえから。




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ムツ姉さんに2周年の記念に頂いちゃいました…!!うわあああん嬉しい!ほんとのほんとにありがとうございますっ(泣)
春色の風の中、二人で仲良く自転車をこいでいる様を想像すると微笑ましくて頬が緩んでしまいます。いいなあこういうの…!しかも私の通っている大学の設定にあわせてくださったということで…!(坂の上にあって手前がずっと桜並木)狂喜乱舞というかむしろそのまま踊り死ぬ勢いです。ほんっとに大感謝です、よ…!!

つたないサイトですが、これからももそもそ頑張らせていただきます。本当に、本当にありがとうございました!!


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