アイツは可愛い、年下の男の子






精神集中してます、と言わんばかりの背中。
普段の彼からは想像できないと言ったら失礼だろうか。
的を真っ直ぐに見据えて、背筋がすっと真っ直ぐになる瞬間が好きだ。
夕日が見える校舎からは、弓道場がよく見える。
こんなことするの、久しぶりだよな、と思いつつもついつい目が離せないでいる。


、何してるんだ?」
「こっちの台詞、とっくにホームルーム終わってるよ。」
「春だからな、言うだろ?」

春眠暁を覚えずってな、と将臣が笑った。
春だから、眠いのは当たり前なんだよと、そんな理由に結びつけるために
いちいち例文として出されたら、偉人もとんだ迷惑だろう。

「で、お前は何してるんだ?」
「ん?」
「終わったんだろ、ホームルーム。」
「まあね、君が来るのを待ってたんだよ。」
「そりゃ、悪かったな。」
「まあ、いい暇つぶしになったからいいけど。」
「・・・素直じゃねえな、お前は。」

どういう意味だ、と彼を見るとすぐにその視線は逸らされた。
望美はとっくに帰った、と告げると別に聞いちゃいねえよ、と彼が笑う。
素直じゃないな、あんたも、とボソリと呟くとうるせえよ、とコートが飛んできた。
桜が咲いているというのに、気温が下がった今日は少し肌寒い。









「兄さん、先輩も。」
「よ、部活お疲れ。」
「あれ、部活終わったの?」
「ええ、今日は早めに終わったんですよ。」

風邪が流行っているから、出席する部員が少ないのだと彼は説明する。
そうかそうか、と頷いていると将臣が一緒に帰ろうぜと珍しい言葉を発した。

「兄さんがそう言うの珍しいな。」
「そうか?ま、オレは海に行くから別行動だけどな。」
「は、ちょっ、将臣?」
「ってことで、譲、コイツちゃんと送ってけよ。」
「分かってるよ。」

絶対、わざとだとしか言いようがない。
彼は、立ち去り際に楽しめよと言い残して去っていった。
頼りにしていた友人は、とっくの昔に帰宅済み、今頃家でテレビでも見ているのだろう。

先輩、どうしました?」
「ううん、何でもないよ。」
「さっき、部室見てました?」
「気づいてた?」

まぁ、と彼は躊躇いがちに頷いた。
望美がいなかったことに気づいて、彼は落胆したのではないかと思ってしまった。
放課後時間のある時には、望美と一緒に弓道部を眺めていたから。

「今日は、将臣の荷物の番をしてたんだよね。」
「兄さん、また屋上?」
「そう、また屋上だよ。困ったもんだよね、でも頭がいいからイヤになる。」
「あはは、そいえば、先輩も同じこと言ってましたよ。」
「望美が?」
「ええ、兄さんは教室にいる時間が短いのにって。」

嫌味なヤツだよね、と笑うとあえてノーコメントでと譲も笑った。
先輩は、兄さんのことどう思いますかと尋ねられた。
一番的確な言葉を捜しきれなくて、友人だけどピラミッドの頂点にいると答えた。
望美と同じ位置にいるんだよ、と言うと譲はああ、と妙に納得したように頷いた。


「変な表現だった?」
「はは、すみません、あまりに先輩らしいから。」
「そう?」
「ええ、兄さんが聞いたら喜びますよ。」
「はは、そうかな、嫌そうな顔するんじゃないかな。」
「素直じゃないですからね、兄さんは。」


これは、遠まわしに将臣と付き合えばいいのにと言われているのだろうか。
目の前の譲はピラミッドの頂点なんかではなく、別次元の頂点の人なのに。
鈍いにも程がある、と憤慨したいところだけれど、彼の鈍さは長所でもある。


「まったく、譲だって素直じゃないのに。」
「そうですか?」
「そうです。望美の家に寄ってく?」
「い、いえ、いいですよ。」
「・・・だから素直じゃないって言われるのよ、あたしに!」


先輩こそ、海に行けばいいのにと譲が苦笑しながら言う。
頬が赤くなってることに気づいていないのだろうか。
そんな顔で言われても、こっちにはダメージなんてないのに。
他のダメージは十分くらっているけれど、悔しいからそれを悟られたくはない。


「ほら、望美の好きなお菓子買って行くよー。」
「ちょ、先輩、待って下さいよ。」
「ヤダ、待ってなんかやんない。」
先輩、何怒ってるんですか?」
「怒ってないよ、怒ってない。不機嫌だけど。」

怒ってるっていうんですよ、そういうのと彼は笑った。
コンビニのドアに手をかけたとき、このまま散歩でもしましょうと彼は手を引いた。
自動ドアであれば起きなかった出来事かもしれない。
将臣のこういう不意打ちには対応できるが、譲となれば話が変わってくる。

「ちょ、譲君。」
「気分転換するのが一番ですよ。」

人の気も知らないで、年下の彼には振り回されっぱなし。
だけど、そんな気の優しい彼が好きなんだと改めて気づかされてしまう。



「今に見てろ。」

思い切り困惑した譲を見れる日までこっちはこっちで、努力をしないとダメなんだろう
な、と
引かれた手を見ながら心の中で気合を入れた。


アイツは可愛い、年下の男の子



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譲ううううう!!!!(ごろごろ居間往復してなおごろごろ)
私本当に気持ち悪いくらい譲のことが大好きで、ゆずたんハァハァとか変態もいいところな感じなんですが(本当に変態ですね)彼には理性を失わせる魅力があります。ええ。(真顔)
絶対振り向かせて見せるんだから…!本当にありがとうございました!!!


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