「…だから悪かったっつってるだろ?」
「お前の言葉ほど鋭利なものって他にないと思う。」
「…どういう意味だ?」
「繊細で脆い俺のガラスのハートがそれはもう粉々に…」
「帰る。」
「此処お前ん家だろ、どんだけ躯張ったギャグだ。
」 「…帰れ。」
さめざめと泣いてみせたかと思えば今度はしっかりとつっこみを入れる。そんな萩原に松田はほとほと困惑しきっていた。と、いうのも彼がこんなにも傷ついたと噛み付いてくる理由が全く判っていないからだ。酒の勢いに任せたアソビにしては悪ふざけがすぎる。(そもそも缶ビール一本で飛ぶような莫迦じゃない)
「だからぁ俺はね、松田。お前を愛してるって言ってるでしょう?キスがその証だってことくらいガキじゃあるまいし判ってるでしょ。」
「だからって何で俺とお前が。」
「愛し合ってるから?」
「そんな憶えはねぇな。」
と、言い終えたところで再び萩原が重力に負けたようにがくりと項垂れてへたり込む。そして周りにはキノコでもはえてくるんじゃないかというくらいに鬱陶しい空気を醸し出して某CMのチワワ宜しく松田を見上げる。そもそもの発端は萩原からのキスを松田が淡々と拒んだことに始まる。
「萩原。」
「だあってぇ。」
「…女々しいにも程があるだろ。」
「お前が受けのくせに雄々しすぎるだけだ。」
「受け?」
「ごほんっ…まあそれは良いとしてだね松田君。お前この前何聞いてたんだよ。俺はお前の返事を聞いた筈だったけど?」
「ああ。」
だから困るのだ、と、松田は何時も言えずにいる。確かに確認作業のような告白はあった。それは自分もはっきりと憶えているし、何より、自分が初めて萩原という人物をそういう視線で見た時の気持ちに嘘偽りはない。が。どうしても認められないものが其処に在る。その所為で松田はこれ以上踏み込ませないように必死になっているのだ。
爆発物処理班に入って、何度となく向き合った其れは矢張り恐怖の対象でしかない。無くしては困るものを持ちたく等無かった。けれど、それはもうどうしようもない程に近くに在って、簡単に手が届いてしまう。障害物等何もなく。ただ、手を伸ばすだけで。それを失うことは、自分の命を失うことより遥かに恐ろしいことなのだ。それを、萩原は判っていないと松田は思う。
「無くしたくないものは手中に収めない。」
「俺は死んでまで後悔したくないね。精々天国にでも逝って女神様侍らしてやる。それまで俺の女神様はお前。考え方の相違はあれど欲してるものは一緒。違う?」
違わない。けれど、どうしても自分はその恐怖に打ち勝てない。
「お前は保守的だな、陣平。」
「お前は…」
嗚呼、その。時折見せる優しい眼差しを遮らせて欲しい。どうしたって松田は、その生気に満ちた柔らかい視線だけには抗えないのだ。
散々女々しいと言っていたが本当に女々しいのは自分で。
「なぁんて。お前隙だらけ。」
けらけらと笑って萩原が松田を抱き寄せる。一本取られたと思ってももう遅い。嗚呼、だから嫌だったのだ。少しでも手を伸ばしてしまったばかりに、相手に手を取られてしまうなんて。
「可愛いねェ。猫みたい。」
「…あのな。」
「お前なんか何も考えずに俺んとこでゴロゴロ鳴いてれば良いの。」
「それは御免だな。」
「んじゃあどうしたい?」
意地悪く訊くのは多分、明確な答えを吐き捨てさせる為の手段。そうだ、こいつは手放そうとしても離れないどころか鬱陶しいくらい纏わりついてくるような奴で。
「とりあえず離せ。」
こっちが少し拒絶するくらいが丁度良いのだ。



   ――情熱と熱情と、その狭間



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大好き!なほーちゃに頂いちゃいましたvv萩松!萩松!!!
めためた好きなCPをめためた好きなほーちゃに書いていただけて幸せモノ過ぎます。勝手にタイトルつけちゃったけど自分のセンスのなさにorz
しかし松田は可愛いなあデレデレ。ほーちゃ、本当にありがとねー!!



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