眠りの森





アナタと一緒にいるだけで 幸せだって知ってた?

アナタが安らかに寝息をたてて 上下するその体を ゆるやかに撫でる

ココではイイのよ

私といる時はイイのよ

ゆっくり休んでイイのよ

ほら 聴こえてくる  木々のざわめきが  鳥たちのささやきが

私と言う名の 森の中

最愛のアナタが 満ち足りて 眠りにつくことを願わん






チーン!とトースターが鳴ってパンが焼けたことを知らせた。

「パン、焼けたぞ? 何ぬるんだ?」
「んー」
起きろ」
「んんーー」

「んぅーう・・・・・・・・、ジャム」

そう言ってクア〜っとあくびをひとつ。
テーブルについてもまだ覚めない頭をもどかしくも思いながらも、一緒に朝食をとれる幸せに自然と顔がふにゃっとなる。
朝食と言っても、もう11時近いから正確にはブランチになるのだが、こうして久し振りに秀一とテーブルにつくなんて本当に稀で、私には貴重なひと時だ。

秀一と同棲を始めてはや何週間目か、彼の仕事が仕事なだけに一緒にいられるのはごく短くて、それでもそれを承知で同棲して過ごしている。そんな彼と一緒にいられる時間を私はとても大事にしているのだ。
「ん」と差し出されたプレートに乗ったトーストをかじりながらそんな事を思っていた。今日は朝一緒に過ごせて嬉しいなとか、こんな風に過ごせるのはいつ以来だろう?とか、これからもすれ違いばかりなのかな?とか考えて良く噛まずに飲み込んだパンが喉に詰まってむせた。

「んむ〜〜!」
なんて胸をポスポス叩いていたら
「何やってんだ」と言われながら、差し出されたミルクを受け取った。

「プハッ!ビックリした」
「なんでよく噛んで食べないんだ?まだ寝てるのか?」
「違います〜起きてます〜 まぁまだ眠いのは確かだけどさ」
「昨日あまり眠れなかったか?」
「誰かさんが帰ってきたのが2時ごろだったからね」
「3時だ」
「あれ?そうだっけ?」
昨夜、眠くて眠くてそれでも彼が帰ってくると聞いて寝ないでずっと待っていた。
「お帰り〜」と迎えた頃にはすでに睡魔に負け気味だった私は、秀一と抱きあって、二人で倒れるようにベッドに飛び込んだのだ。その後の記憶は無い。
何時だったのか最後に時計を見たのも覚えていない。

私は彼の寝ている所をあまり見ない。
彼はいつも私より先に起きては仕事をし、私が眠った後に寝てしまう、それの繰り返しだ。
仕事柄、多忙なのは分かってはいるけれど、一緒にいる時ぐらいはもう少し休んで欲しいな、なんて思う。それでも、彼と一緒に眠れるのは何より幸せで、一緒に眠るだけでも幸せなんて、私幸せの基準がボケちゃっているのかな?と時々疑問にも思う。

「秀一さん眠れた?」
「? ああ。」
「ぐっすり?」
「まあまあだ。」
「あんまり寝ないんだね」
「そうか?」
「そうだよ」

私はベッドに入っても中々眠れなくて何度か寝返りをうつ、そして寝ている間もどうも昼間のストレスからくるのか寝相が悪いみたいで、そして寝起きもあまり良い方とは言えない。
逆に彼は、休む時は休み、寝起きも良く、起きたと同時にシャキっとしすぐに行動できるようで、自分の低血圧とストレスを少し恨んだ。
彼に合わせられるようになれたらな、と思い口にした事があるが
「そんな事しなくていい」って言われちゃったっけ。
好きな人には合わせたい、って言うのに彼は
「お互いの生活は尊重しあう方が賢明だろ」と返されて返す言葉が見つからなかった。
それはそうだけど。


朝食を終えて私がお皿を洗っていると後ろから秀一が抱きしめてきた。
「なんですか〜」
「ん?」
「洗いにくいんですけど〜?」
「そうか」
「泡 つけちゃうぞ」
「くくっ、やめろ」
と言われ更にギュウッと抱きしめられる。
もう食器洗いどころじゃない、私の心臓はドキドキしっぱなしでただでさえ久し振りに朝一緒にいられるだけで幸せ、と思っていたのに不意打ち過ぎだ。恐らく私の顔は真っ赤で緩んでいるだろう。
顔を見られたくないな、なんて思ってうつむく。

「なんで下むくんだ?」
「なんでもない」
「なんでだ?」

ギュギュッと更に力が増して抱き込まれる。心の中では恥ずかしいと言う気持ちがいっぱいでドキドキが止まらない。

「朝からくっつき過ぎじゃない?」
「そうか?」

そうだよ、と返せば更にムギュウっと抱きしめられて、絶対彼は楽しんでいる!と思った。現に声が嬉しそうで、秀一は時々イジワルなのだ。



ふと、もしかして朝一緒にいられて秀一も嬉しかったのかな?なんてよぎった。
私だけじゃない?
一緒にいられることを秀一も喜んでくれている?
本当にそうなら嬉しいな。


「昨日はすぐ寝てしまったからな」
「うん」
「今のうちに触っておこうと思ってな・・・」
「え?ちょっ?」
「一緒にいられるんだ。悪いか?」

ワルクナイヨ、そう思ったけど言わず秀一の肩に頭をすりつけた。彼の大きな掌が私の頭をくしゃくしゃ撫でる。その時の満ち足りた幸せに心が溶けそうだ。

食器洗いを終えて、ソファに二人で座ると私も彼の頭をよしよしと撫でてあげると、彼は
「なんで撫でるんだ?」なんて言ってきて

「秀一さ〜ん イイ子〜イイ子〜」
「髪が」
「やられたからやりかえしただけだよ?」
「そうか」と言われ今度は私の頭をくしゃくしゃと撫でられる。負けじと彼の頭を撫で返していたらお互い髪がひどい事になって、二人で目が合って笑った。
「鳥の巣〜」と言うと
こそ」と返されて笑いが止まらない。
またもムギュウっと抱きしめられて二人で体温を分かち合った。
幸せなひととき。
秀一が私のまぶたにキスを落として、私も
「やられたからやりかえす」とまたよく分からない理屈でまぶたにキスを落とす。
二人でまったり過ごせるなんて本当に久し振りだった。


が、突然ピン!とひらめき
「あ!」と声が出た。

「秀一さん秀一さん、今日は一日休み?」
「? 今日は休みだが」
「ホント?それなら寝ない?」
一瞬何を言ってるんだ、と言う顔を彼はしたが、
「お誘いなら喜んで」と腰に手が回ってきた、がすかさず
「ち・が・う!」と返した。多分私の顔はまたも真っ赤だろう。
先に言っておくが、私たちはまだ一線を越えていない。
「なんだ?」と少し残念そうにしながらも体は秀一にホールドされたままで。

「秀一さんの寝てる所 私あんまり見たことないからさ!
だから、寝ない?
少しでも休まると思うよ?」
「・・・・・・。食べて寝ると牛になるんじゃないのか?」
「違ーう!そういうジンクス的な事は置いといて、ささっ、膝枕してあげるっ♪」とさも名案の様に人差し指を立てながらエヘンと彼の向かいで言う。
ちょっとあっけに取られたような彼の顔が面白い、が私はせめて一緒にいる時は彼に休んでもらいたいと常日頃から思っていたのだ。
一緒にいられるチャンスはめったにない。
更にこうしてものすごく久し振りに朝一緒にいられるのだ。
そして今日は仕事が休み。
だったらとことん彼に優しくしたい、癒してあげたい、せめてココにいる時は、家にいる時は、私といる時は、安らげるように。
そんな風に思って提案したのだ。

「ホォー、膝枕か。珍しい事言うな
「そう!今日は仕事も休みだし一緒にいられるんだから私が癒してあげましょう♪」
「『ら』はないのか?」
彼の頬をペチと軽く叩いて
「いや『ら』しいじゃなくて、い・や・し・です。」
「くくっ、それは有難いな」なんて微笑まれたら、たまらなく愛しくて思えて、思わずムギュっと彼の頭を胸に抱きしめた。

「私といる時は気を遣わなくてイイからね
私といる時はゆっくり眠ってイイんだからさ
お互いの生活は全然違うけれど、こういう時だけは無理しないで甘えてください。」

それは本音。
それは私にできる精一杯のこと。


「だから安心して眠ってイイのよ。」


秀一は顔を上げて私の目をじっと見つめた。まるで奥深くの真意を見抜こうとするかのように。
彼が仕事でどれだけ騙されたり、裏切られたり、傷ついてきたか私には分からない。
でも、私は彼に嘘をつく気はないし時々軽い冗談ぽい嘘は言うけれども、それは本当に冗談であって、今その必要がないからで。
私の目を見る秀一に、顔をどんどん近づけてゆく。
お互いのおでこがコツンとぶつかった。
まだじっと見つめる秀一を見つめ返して
「本当に、本当にいいのよ。
私にできる事はきっと少ないけれど、秀一さんといる時は力になりたいの。
知ってる?
私は秀一さんとこうやって朝一緒にいられるだけで、凄く幸せなんだよ。」

やや、沈黙があって、秀一の瞳が少しやわらいだ。

「俺もだが」

わが耳を疑った。
秀一も私とこうしていられる事を嬉しく思ってくれている?
「本当に?」
「ああ」
「おんなじ?」
「ああ」
「夢見たい」
プニっとほほをつねられて
「いはい〜〜〜〜っ」と情けない声が出てしまった。
「まだ寝てるのか?本当には寝起きが悪いな」
「起きてるよ!もうちゃんと起きてるから!」
クスクス笑う彼に、再度尋ねる
「本当に一緒にいて嬉しい?」
「もちろん」
「私も!」
と真剣に言葉を返してお互い笑った。

「さぁ!膝枕してあげる秀一さん!」と彼から離れてソファの隅っこにちょこんと座る。
彼は笑って私の膝に頭を倒して、彼にしては珍しく表情が豊かだななんて思いながら、かがんで彼の耳に「大好き」とささやいた。




「子守唄うたってあげようか♪?」
「遠慮する」
「まあまあ遠慮せずに〜、ね〜んね〜ん〜ころりよ〜♪」
、そんな口はふさぐぞ?」
ピタっとをやめて「え?」と返せば彼がまたくっくっくっと笑っていて、やられたと思って本日3度目の赤面。
多分今日は一日こんな感じでゆるやかに過ぎてゆく。




静かで穏やかな時間

ねえ知ってる 私がアナタと一緒にいるだけで どんなに幸せか

ねえ 私といる時はゆっくり眠ってイイのよ

静かに 休んで 包み込める  そんな存在でありたいの

まるで森のように

あなたは忙しく 日々を過ごしていても 

私という 森の中では 安らかに眠れるのだと

包み込んで 教えたい

愛しいアナタがゆっくりと 呼吸しながら眠りにつく時 私は大きなみどりになる

時をともに過ごす心地よさに身をゆだねて ともに歩もう

密に過ごそう

二人の進む ゆきさきの 灯が  ほら

明かりを増して ゆきさきを照らさん



Fin

<おまけ>




「・・・・・

「なに?」

「やはり・・・眠れないんだが」

「え?」


むく


「さっき起きて朝食食べたばかりだろう。コーヒーも飲んだ」

「うんうん」

「何を一人で納得してるんだ」

プニ

「うひゃっ! ちょ、変なとこ触らないでよ! ////」

「このままでいいから、DVDが見たいんだが」

くしゃくしゃ
秀一の髪を指でもてあそびながら

「何が観たいの?」

「何がある?」

「・・・・・・・・・・・ま、「魔法にかけられて」 //////」

下のほうで、秀一がくつくつ笑っているのが膝を伝って伝わってきた

「むぅー そんな秀一には見せてあげません」

「他には?」

「・・・・・・・・・・・ポ、「ポニョ」//////」

2度目のくつくつが膝を伝わってくる

「古いので良ければ・・・「アメリ」。オドレィ・トトゥ好きなの」

「じゃあ、それにするか」

「OK じゃあこれ観たら証明写真撮りに行こうか♪」

「?」

「あの世へのファックスだよ」

「どういう意味だ?」

「このダ・ビンチ・コードは流石の秀一でも解けませんでしたとさ」

?」

「見れば分かるよ。」

ピ!


秀一にキスをひとつ

「始るよー 秀一さん」
「あぁ」


映画が再生される。

きっとこれから二人で映画を観て、二人の証明写真を撮りに行く、そしてそれはきっと映画と一緒で二人で破って捨てるのだ。

そんな素敵な昼下がりには、あたたかなひだまりが良く似合う。



Fin

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草一さんに頂きました、赤井夢ー!!(*ノノ)
うわんありがとうございました!めっちゃ幸せな気持ちになりました…///
元々お礼にと頂いたものですが、お礼どころじゃないですよ…!!
本当に、本当にありがとうございました!!(*´v`*)

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