世界の中心で叫ぶ変な人々(某伊達眼鏡談)





別に、見たくて見てるわけじゃない。というか、こんな現場、むしろ見たくない。
「あのっ…ずっと前から跡部さんのことが好きでした!」
(…勇気あるなぁ)
景吾のファンなんて、大体がみんな「ファンでいる」ことを楽しんでいるだけなのに。
ここから見えるのは女の子の表情と、景吾の後ろ頭。よって、景吾の表情は見えないが、彼女の表情から大体は察することができた。…察したくなかったけど。
「興味ない。以上」
…きっと、奴はものすごく面倒くさそうな顔をして言ったのだ。涙をたたえたその女の子は、同姓の私から見ても割と可愛かったのに。
「そ、そうだよね…今はテニスのことで頭一杯で、恋なんて…」
あ、ばか。傷が深くなる。
そう思った時には、時既に遅し。
「テメーには、俺様が二つ以上のことをこなせないような不器用な人間に見えんのか。…俺は、テメー自身に興味がないと言ったんだよ」
「………っ!」
ぽろぽろ涙をこぼしながら、屋上のドア――言い忘れてたけど、ここは屋上だ――へと駆けだしていった。ばたんっ、といささか乱暴にドアが閉められると、風の吹く音しか聞こえなくなる。
そう、元々こいつは、フェミニストなんかじゃないのだ。ただ周りが、理想の「跡部景吾」を作っているだけで。
「…駄目だよ景吾、女の子を泣かせちゃ」
貯水タンクの上からそう呼びかけたら、振り返りもせずに返してきた。
「俺を見下ろすんじゃねーよ」
…こういう、奴なのだ。





「覗きか。結構な趣味だな」
「勝手に来たのはそっち。ここは私のスペースなんだから不法侵入しないで」
「はっ、言ってろよ」
大した苦労もなくの横までやってきた跡部は、ごろりと横になると目を瞑った。
「景吾」
「…なんだ。下らないことだったらここから落とす」
「なんでさっきの子、振ったの?」
容赦のない勢いで飛んできた蹴りを、軽く身を捻ってかわす。当たったら、本当に落下していただろう。
「テメーに話す義理はねーよ」
「あ、そ」
…私と景吾は、恋人だとか、そーいう関係ではない。ただ、景吾は俺様で、私も自分主義で、なんとなくお互い惹かれた。面白そうなやつがいるな、と。それ以来、なんとなく一緒にいることが多くなったわけだが、ただそれだけだ。確かに、話す義理はない。
「興味なかったんだよ」
「話してるじゃん」
のツッコミは無視し、跡部は面白くなさそうに続けた。
「テメーは、見ず知らずの人間に急に好きだと言われて、ホイホイ付き合うのか」
「まぁ、カッコ良ければね。ラッキー、みたいな?」
「付き合うのかよ!」
がばっ、と身を起こした跡部に、がきょとんとして言う。
「…ラッキー?」
「テメーに期待した俺が馬鹿だった…」
そう言うと、跡部は再びそっぽを向いて横になってしまった。
「…期待、ってなにを?」
「…どうでもいいところばかり拾うんだよな、テメーは」
本当に面倒くさそうに言うと、ふいに身を起こしてぐいっとの胸ぐらを掴んで引き寄せる。
「イイ男なら、身近にいるだろ?」
思わず寄り目になってしまう程の至近距離で言われた台詞に、は赤面…するでもなく、不適な笑みを浮かべ、ただ無造作にその手を振り払った。跡部のほうも、心得ているかのようにあっさり手を離す。
「私は、自分が一番可愛いの」
貯水タンクの上で、仁王立ちになり…つまり跡部を見下ろし、が言い切った。
「…奇遇だな。俺もだ」
同じく仁王立ちになり、跡部が言い捨てる。さすがに立たれてしまうと、が見下ろすことはできなかった。…代わりに、睨め上げたが。
「だから、自分が幸せになれなさそうな道は選ばない。景吾は、私にはふさわしくない」
私たちは、自己中だ。
「だから、俺は自分が欲しいと思ったものは手に入れる。、テメーをな」
どうしようもなく俺様で、自分を中心に地球が回っていると信じて疑わない。
「…いい加減諦めれば?」
「さっさと俺のものになれよ」
己の信じた道を進む限り、交わることはない。
「景吾」

「「誰を中心に世界が回っているか教えようか?」」





「どう思う?」
「どうもならんわ。あいつらアホちゃうか?端から見たらバカップルの痴話喧嘩や」
「けどなぁ、一生ああやって張り合ってそうな気もする」
「それならそれでええんちゃう?亭主関白かカカア天下かを毎日もめるっちゅーんも」
もう一つある貯水タンクの裏で、弁当をつつきながらそんな会話がなされていたことを…跡部とが、知る由もなかった。




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荻野ともみさんに、「時計さん同盟」の背景絵を描いていただいたお礼に送らせていただきました。感謝感激です、本当にありがとうございました!!