小さなあなたに、とびきり大きな幸せを。





抱えきれないほど の 、







「…ってわけ!どう?」
「どう?って言われてもなぁ……」
の提案に、天真は眉をひそめた。
「つーか、ンなことしてていいのか?」
「息抜きも必要でしょ!詩紋くんもそう思うよね?」
「うん」
この提案は、詩紋の同意なしには成功し得ない。必死の形相のに、詩紋は笑顔で頷いた。
「お前はに甘すぎなんだよ!」
「天真先輩だってそうでしょ!」
「なっ……」
喧々囂々と言い争いを始めた二人を横目に、は一人ガッツポーズを決めていた。
「よーっし!頑張るぞーっ!」





「……殿?どこへ…」
「んと、ちょっと一階に用事があって。しばらく戻りませんけど、友雅さんはゆっくりくつろいでてくださいね」
座布団・緑茶・茶菓子を用意すると、はそそくさと部屋を出ていってしまった。…は普段、どこへ行くのにも、友雅が心配しないようにと説明するか、連れて行っていた。…そんなの見るからに不審過ぎる行動に、友雅は眉をひそめた。
「よっ…と…」
机の上から椅子の上へ、そして友雅用のクッションとして置かれているクマのぬいぐるみを踏みつけ、友雅は床へと降りたった。階下では、何やら賑やかな声が聞こえる。
「ふむ……」
ここから先へは、どうやっても進めそうにない。御簾がかかっていただけの平安の世とは違い、ここでは「どあのぶ」を回さなければ部屋の外へ出ることはできないのだ。
「おとなしく待っていた方が良さそうだね…」
足下では、今度は罵声と悲鳴だ。……不安は煽られるが、どうしようもない。
まだ昼を少し回ったばかりの高い太陽に目を細め、友雅はクマのぬいぐるみに身をもたせかけて目を閉じた。





「早く!日が沈んじゃう!」
「だったらどうだってんだよ!!」
「都合が悪いの!」
「うわあ、ちゃん、足下気をつけて!」
「だいたいなんでこんな時間に…天真くんが…」
「なんだよ、俺のせいか!?」
「卵全部爆発させて買い直させたり、生クリームがじゃりじゃりになるくらい砂糖入れたのは誰!?」
ちゃんっ、着いたから!ほら!」
どたどたと階段を上ってくる足音、賑やかな声に、友雅はゆっくりと瞳を開いた。まだ頭がしっかりと覚醒する前に、蹴り破らんばかりの勢いで扉が開かれた。
「ハッピーバースデー、友雅さん!」
「………は、」
の声と、部屋に飛び込んできた三人の姿に一気に目が覚める。…が、何を言いたいのかがわからない。
「馬鹿、それじゃ通じないだろ」
「あ」
そっか、と小さく納得の声を上げると、改めて友雅に向かって言う。

「お誕生日おめでとうございます、友雅さん」

天真と詩紋もに続き、祝いを述べる。しばらくなんのことかわからなかったが、ようやく自分の誕生日を祝われたらしいと気付いた。
「………ありがとう。わざわざ、すまないね」
「いえいえっ!で、みんなでケーキ…じゃなくて…んと、甘いお菓子を作ったんです。お祝いには必須なんですけど、今回は特大なんですよ」
「…これは………」
友雅の目の前に、ずおぉぉおんっと白い何かがそびえ立っていた。大きい。なんかもうよくわからないくらい大きい。
「小さな体でお腹いっぱいケーキを食べるって、すごい幸せなことだよね、って思って…」
「どうだ?食っても食っても減らなさそうだろ?」
「うちにあった、一番大きな型を使ったんです」
口々に言われるが、…これは少々、加減知らずではないだろうか。「けえき」とやらに潰されてしまいそうだ。
「!」
そのとき。
殿!」
鋭く飛ばされた友雅の声に、が飛び上がって窓の外を見た。
「うわわっ!ちょ、ごめん!」
「なっ…」
「え?え?」
なにがなんだかわからない、という顔をしている二人を、は強引に部屋の外へと引きずり出した。扉を閉め、ぜえぜえと肩で息をする。
「……?」
「ごめっ…明日、学校にケーキの残り持っていくから、今日はここまでで!ごめん!」
「お、おい!?」
「何が………」
疑問符を浮かべまくりの二人に謝り倒し、玄関まで連れて行って見送る。よくはわからなくとも、必死のに圧されたのだろう。二人もそのまま引き下がって帰っていった。
「〜〜〜っ、危なかった…!」
「本当にね」
びくっ。
…背後から聞こえた声に、肩が震える。
「まさか、この大きさの私が君と暮らしているとは…」
「わー!わー!」
がばっと友雅の口をふさぐと、やんわりとその手を捕まれた。…いや、捕らわれた。
「………あの」
「小さな体で楽しむことはできなかったが…この大きさになればなったで、別の楽しみ方もあるのだよ」
「ちょっ…!」
ひょいとを抱えると、友雅は楽しそうに笑って言った。
「祝ってくれるんだろう?」
「〜〜〜〜〜っ!!」





大切な君に、とびきり大きな幸せを。
抱えきれないほどの……


愛を。




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