桜色の、君。 miracle☆endless!! 「花見ー?」 「なんだよその不満そうな顔は。たまにはいいだろ、オレの提案に乗ってくれたって」 「むー…」 新一の提案に、が読みかけていた本を膝の上に置いてうなる。 「別にいいけどー…何も企んでないでしょうね?」 「……オメーも大概失礼だよな」 そう言ってジト目で睨まれ、ははあと息をついた。 「…たまには、いっか。今度の日曜でしょ?お弁当作ってくね」 「よっし!」 ちなみにこのとき、新一には本当に他意はなかった。ただ単純に、たまにはと花見にでも行きたい…そう思っただけなのだ。だから、がOKを出してくれたときは純粋に嬉しかったし、楽しみだった。 (……嘘はないみたいだし、いっか。) そんな新一の様子を察し、もふ、と笑みを零したのだった。 「…成程、花見ね。」 にっ、と。 イヤホンを引っこ抜き、快斗は口元に笑みを浮かべた。 「いい天気ー!」 「ああ、本当に…まさに花見日和だな」 新一の言葉に頷き、が携帯を構える。 「母さんにもこの桜の写真、送ってあげよーっと」 「おいおい、父さんにも送ってやれよ、泣くから」 冗談ではなく、半ば本気でそう言う。が可愛くて仕方のない優作は、が有希子にばかりメールを送っていると本気で妬く。仕方なく新一がフォローをすると「お前のメールがほしいわけじゃない」と八つ当たり気味の返事が返ってくるので、新一にとってはただただはた迷惑なだけである。 「わかってるよー」 以前もそう言って結局送ることはしなかった。はあ、とため息をつくと、新一も携帯を構える。自分が桜の写真送ったところで、優作が喜ぶはずもない。だが… (入りなら、文句ねーだろ) 桜を撮ろうとカメラを構えているを、携帯画面に映す。 …ちょうどそのとき、強く風が吹いて一斉に花弁が舞った。 桜 色 の、君 。 「………、」 かしゃ、と。 乾いた音と共に切り取られたのは、桜吹雪が舞う中で、くすぐったそうに微笑んでいるの姿。 (…あーあー、綺麗になっちまったなあ。) 妹とはいえ、双子だ。生まれたときからずっと一緒で、ずっと隣で、共に歩んできたはずなのに。…携帯の中のは、まるでどこかの知らないお嬢さんだ。 「ずっと近くで見てきた分、ふとした瞬間にそうやって客観的に見ると驚くもんなんだ。こいつ、いつの間にこんな綺麗になったんだ、ってな」 「ああ…そうかもな。なんつーか、娘を嫁に出したくない父親の気分―――」 そこまで言いかけて、がばっと振り返る。 「よ。」 「くっ……!!」 「黙れ黙れ、桜の精の邪魔をするな」 声を荒げかけた新一の口を、人差し指で制す。 「桜の精って…」 あいつのことか、といいかけ、快斗の視線を追う。 すると、うまく写真が撮れたのだろう。今は、携帯の画面を見ながら何かを打ち込んでいる。 (母さんにメール打ってんのかな…) 綺麗だよ、とか。 一緒に見たかったね、とか。 (もしも、) あいつがそういうメールを送る相手が、母さんじゃなくなったら。 「例えば横にいるこいつにメール送ったりしてたらどうすんだろーな、って?」 「思ってねえよ言ってねえよ!!!」 にっと笑って茶々を入れられ、新一が快斗に噛み付く。…その通りだなんて、自分でも認めたくない。事実こいつは今、に一番近い距離にいるといって過言ではないのだ。 (わかってるよ…) それを自分がどうこう言う権利など、ないくらい。 「……ってか、オメー、なんでここにいるんだよ?」 不意に、そんな根本的な問題に思い当たる。この話はとしかしていないし、偶然というにはあまりにも出来すぎている。 「え?あー…いや別に?偶然偶然」 途端に明後日のほうを向いた快斗に、新一の目つきが険しくなる。 「……オメー、まさか…」 「おーいー!」 新一の追随を避けるかのごとく、快斗が手を振ってのほうへと向かう。 「ちょ、おいこら待て黒羽!!っ、オメーも手なんか振るんじゃねーよ!!」 「えー?」 ヒラヒラと手を振ったを見て、新一が加速をかけて一気に快斗を抜き去る。 「!」 「…う、うん?」 新一の剣幕にやや驚きつつ、が応える。 「さっき、メール打ってたの誰だ?」 「え?母さんに…だけど…あ、ごめ、父さんにはまだ打ってない」 父にメールをしなかったことを責められたと勘違いしたのだろう。そう言ったに、新一はフー…と息をついた。 「そっ…か。うん…そっか。」 肩の力が、抜ける。それを見越したように、快斗が後ろから声をかけた。 「ー、偶然だな。オレも花見に混ぜてくんない?」 「まったく、あんたはどこからわくんだか…」 苦笑しながら言ったの表情を見て、また少し、寂しくなったりもして。 「…今日はオレのが先約だからな」 言って、「行くぞ」との手を引いて歩き出す。 「ちょ、新一!?」 「問答無用ー」 「……しょーがねーなぁ」 それを見送って、快斗が苦笑する。 …今日のところは、見逃してやるとしよう。 「なあ」 「んー?」 桜の花を見ていた視線を、新一へと向ける。 「…オメーもいつかは、嫁に行くのかもしれないけどさ」 「嫁」 唐突過ぎるその台詞に、は瞬間固まった。…そして次の瞬間、桜の精なんて吹き飛ばす勢いで爆笑する。 「あははははははははは!!!!」 「な…なんだよ!」 なんだか言った自分まで恥ずかしくなり、新一の頬がかあっと紅潮する。 「…っぷ、ふ。新一がなにうじうじしてんのかと思ったら、」 笑いすぎてこぼれた涙を拭いながら、が続ける。 「大丈夫。私は、新一とずっと双子だよ。」 言って、ふわりと微笑ったを見て。 ああ…こいつ、ほんとに綺麗になったんだなあ、なんてまた思ったりして。 …また一本とられたなあ、なんてことも思ったりして。 (ま、いいか。まだ、もう少しはあいつに渡すつもりはねーからな) それに、は言った。『ずっと双子だよ』と。 (…くすぐったいけど、たまにはいいもんだな、こーいうのも。) そう、これから先だって。 …自分の前からその微笑みが消えることは、きっとないのだから。 * To:父さん Sub:[no title] 添付:sakura.jpg 本文:綺麗になっただろ? To:息子 Sub:[no title] 本文:帰国する。 ---------------------------------------------------------------- BACK |