Will −願い・決意−





キザ、という言葉は、漢字だと「気障」と書く。…気に障る、と。
しかも某大手辞書によると、「服装・態度・行動などが気取っていて、人に不快や反感を感じさせること」なんて書いてある。
「…で、結局何が言いたいんですか、お嬢さん?」
「つまり私は今まさに神経逆撫でされているのですが」
片手に電子辞書を持ったまま、は小さく溜め息をついた。
何を考えているのか分からないが、完全に『怪盗キッド』になっている快斗を見やる。…その手には、ビッグジュエル。
「さっさとお逃げになったらどーなんですか、キッドさん。警部来ますよ」
今日も今日とて白馬とキッドを追っていたのだが、捕まえられるはずもなく。残念なような、安心したような複雑な気持ちで自室の扉を開ければ、
なぜか開いてる窓とはためくカーテン。静かにベランダに佇む彼は、先ほどから歯の浮くようなセリフばかりぺらぺらと喋り続けているのだ。
「そうですね…貴女ともう少しお話ししたいのですが…星々のざわめきが耳につくようになってきました」
…ウザい。
素の快斗を知っている身としては、歯がゆいを通り越して虫酸が走る。それに、そろそろ原因を聞きたかった。
「…キッドさーん、なんでそんなにご機嫌ナナメなんでしょーか?」
そう言うと、どうやらびっくりしたらしい。きょとん、とした目でこっちを見てきた。
「…気付いてたのか?」
「快斗がそーいう喋りに走るときは、いつもそうだから」
言って、苦笑する。
「…私の前でくらい、“快斗”でいて?」
「…悪かったよ」
言って、ベランダの桟から飛び降りる。
「けど、おめーが悪いんだからな!」
「…は?私?」
身に覚えがない。とんだ言い掛かりだ、と言うと快斗がジト目でこちらを睨んで言った。
「…もういい加減、白馬とつるむのやめろ」
「へ?あ…」
今日、のことか。
確か快斗…キッドを追っているとき、は一度蹴つまずいた。その時、抱きとめるようにして助けてくれたのが白馬だったのだが…
「あれは、助けてくれたんだよ?…なーに快斗、まさかヤキモチ?」
ぷぷぷっ、とからかうように言ったに、しかし快斗はあっさりと答えてきた。
「そーだよ。」
「…へ」
「好きなやつが、他のヤローと仲良くしてたら妬いて当たり前だろーが」
「あ、いや、あの…」
…まさかここまで直球で返されるとは思わなかった。
あたふたと慌て出したを見て、快斗はにっ、と笑みを浮かべた。
ちゃーん?慌てちゃって、どうしたのかな?」
「〜〜うるさい!」
もう嫌だ、この男。先ほどまでとは別人のようで、それに翻弄されている自分がまた悔しい。
「…んー、だからさ、もうオレを捕まえようとするなよ」
「…はぁ?」
なんで唐突にそこへ飛ぶのだ。
「嫌なんだって!いつもいつも、オレが仕事する度に白馬とつるんでるのを見るのは!それに…」
「…それ、に?」
「あ、いや…」
…あの一味のことが、頭を離れない。きっと、人を殺すことに…ためらいなんか、ない。それにが巻き込まれたら。
想像するだけで、気が狂いそうになる。
「…あのね」
「え?」
突然、快斗の耳にがそっと口を寄せて言った。
「私、快斗のこと、いっぱい知りたいの」
言って、とんっ、と一歩下がる。
「…最初は、“キッドの時の快斗を捕まえたい”ってそう思ってた。でもね、今は違うんだ。キッドは、快斗とはまた違った風に輝いてて、それは私が今まで知らなかった快斗の一面で。…どんな快斗も、その一瞬一瞬を、見つめていたい。いろんな快斗が知りたい。だから…だめ?」
…だめ、だなんて、言えるわけがない。
突然のの告白に、快斗は一気に体温が上がるのを感じた。


どうしよう…ものすごく嬉しい。


「あ…うん、じゃあ…あんまり白馬とくっつくなよ…?」
そう言うと、はぱっと顔をほころばせて言った。
「ありがとう!」
「お、おう…」



…不安は、消えない。
子供じみたヤキモチもそうだが、何よりもやつらのことが。危険な目に会うかもしれない、命を狙われるかもしれない。
それでも…



その瞳に、オレ以外を映さないで欲しいから。



これからも、ずっと、追い続けて欲しいから。



(…何があっても、絶対オレが守ってやる。)



それは、ささやかでありながら、絶対的な決意。



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2004.6.23

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