聖夜の奇跡





…見下ろしてばっかり、というのも正直悲しい。それも、10センチや20センチではなく、まさに大人と子供の身長差。やっぱり、自分と同じ目線で、高校生のあいつと…と願わずにはいられなかった。…奇跡を、願っても良いのなら。
「神様、一日だけでもいいから…同じ目線で会話がしたいです…」







「ええっ、コナンくん今日出かけちゃうの?」
「うん、ごめんね蘭ねーちゃん」
少年探偵団の皆と阿笠博士の家でクリスマスパーティーをする、子供だけのパーティーだから大人である蘭は立ち入り禁止。…苦しいか、とは思ったが、まあ通じない言い訳ではない。
「しょうがないわね…あんまり遅くならないうちに帰ってくるのよ?」
「うん!いってきまーす!」
バタンッ、と扉を閉め、足取りも軽く階段を駆け下りる。言い訳はしたし、もしもの時のために博士にはアリバイ作りを頼んである。
「……お。」
タイミング良く、空からはふんわりとした雪が降ってきた。







「きゃー!コナンくん超かわいー!!」
「……やめとけ。頼むから」
我が家に入るなり全力で抱きしめられ、コナン…新一は、げんなりとしてぼそりと呟いた。と過ごすために、なかなか無理矢理な理由で空けた今日この日。いきなり歓迎がこれでは、脱力だ。
「…久々にやりたくなったの。最初の頃は可愛いなー、と思ってたけど、ずっとだとさすがに嫌になっちゃうよね」
よいしょ、と膝に手をついて立ち上がる。抱きしめるためには、まずかがみ込まなければならないのだ。
「…とりあえず、メリークリスマス!ね!」
「…ん。」
室内はほんわりとして暖かく、食欲をそそる良い香りも漂っている。久々に入った我が家を懐かしみつつ、のあとに続いてキッチンへと入っていく。テーブルの上には、期待を裏切らない豪華なご馳走が所狭しと並べられていた。
「シャンパンも用意しといたんだよー!まずは乾杯といきますか!」
「おいおい、オレは勿論、オメーも未成年だろうが」
「ノンアルコールです。ご心配なく」
言ってにっと笑い、シャンパンをぐっと構える。蓋が勢いよく飛んでいくタイプらしい。
「おい、気をつけ…」
「いっきまーす!!」

キュポンッ!!  ガッシャーンッ!!!

「…やりやがったな…」
「あっはっは、ごめん」
案の定、周囲をよく見ずにが飛ばした蓋は部屋の明かりを直撃した。一気に暗くなった室内に、新一が溜め息をつく。
「動くなよ、破片が飛び散ってるかもしんねーから」
「テーブルからは離れてるから、料理は無事だと思うんだけどなあ…」
割れたのは部屋の中心部にあった明かりだ。壁に取り付けられている方は無事である。仕方なく新一は壁際へ椅子を運び、ごそごそといじって普段はあまり使わない明かりを灯した。
「お、点い………た………」
「あ、ほんとだ!良かったー」
壁のスイッチに触れたまま、硬直する。テーブルからやや離れたところに、飛び散った破片。テーブルの上の料理は、無事だ。そして、流しの脇には、先ほどまでが立っていた。…はず、なのだが。
「新一?どうかしたの?」
てくてく、とこちらへ歩いてくるのは。
「お…お前は誰だ!?」
ガタンッ、と椅子の背もたれへ背を預け、迫り来る彼女を、…「少女」を凝視する。
「は?誰、って、何……が?」
そこに至って、ようやくも異変に気がついた。先ほどまでは腰の位置にあったテーブルが、今は己の目線と同じ高さにある。ちょうどよかったはずのスリッパはぶかぶかで、今にも脱げそうだ。
「……え………?」
ぺたぺた、と頬を触り、腕を触り、胸を………
「ない!!!」
ピシャーンッ、と雷の効果音をつけながら言ったに、新一は椅子から飛び降りると、肩にぽん、と手を置いて言った。
「ないじゃねーよ。オメー元からそんなになかっただろ」
「ちょっ、それはないんじゃないの!?いくらなんでもこんな真っ平じゃなかったでしょ!」
「…って、ンなことはどうでもいいんだよ!オメーか!?だよな?縮んでんのか?何でだよ!」
「さ、さぁ?……あ!」
「何か思い当たることあんのか?」
肩を掴まれ、睨まれて気がついた。…目線が、同じだ。見下ろしていない。
「…昨日の夜、“一日だけでもいいから同じ目線で会話がしたい”って、神様にお願いした。けどなあ…自分が縮むんじゃなくて、新一に大きくなって欲しかったんだけど」
「…マジで?」
「うん」
自分が縮んだときには、無論服は一緒に縮んではくれなかった。だが、今のは服も一緒に縮んでいる。きょとん、とした顔は幼くて可愛い…って、これは関係ないか。
「奇跡だ奇跡!ちょっと神様間違ってるけどいいや!新一と同じ目線!あはーやったー!」
「おいおいおい…?」
そんなあっさり納得していいものか、探偵としてこの非現実的な状況を放っておいていいものか、しばし思考をめぐらせるが…
「…奇跡、か。まぁ、そーいうのもありかもな」
結局、“奇跡”とやらに納得せざるを得ないのであった。
「ごはん冷めちゃうよー」
「オゥ!」
小さな体でなんとか椅子によじ登ると、二人で腕を伸ばしあって乾杯をしたのだった。







「…あの、ね」
「ん?」
子供二人にはちょっと無理のあった量の夕飯をたいらげてから、のんびりとソファに座って二人並んでテレビを見ているときだった。ぽつりと言ったに、新一が横を向いて応える。
「前、向いてて」
「? わかった」
再び前を向けば、ふわりと鼻をくすぐる甘い香り。ほぼ同時に、肩に心地よい重みを感じる。
「…えっへっへー、新一に寄りかかれるー。寄りかかってもつぶれないー」
「…あたりめーだろ、オメーが小さくなってんだから」
二人でくすくすと笑いあう。ふいをついて新一が頬に軽くキスをすると、「マセガキー」と言ってがからかった。
「あのね、新一」
「ああ」

「「…幸せ。」」

体は小さくても、それが一夜限りのことだとしても。
お互いに頭を預けたまま、二人は夢の中へと落ちていった。







「…戻った」
「そーだな」
奇跡の一夜が明けた、翌朝。
何事もなかったかのように元のサイズに戻ったは笑顔で、うっかり蘭に連絡をいれずに無断外泊してしまった新一…コナンは、ひきつった笑顔で。
再び、非日常的な日常へと戻っていったのだった。



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奇跡ならなんでもありですよね!ね!(苦しい笑顔で)コナン=新一のくだりを書くと大長編になってしまうので、そのへん(一番大事なところを)はしょってしまいました。気持ち的に「ドルチェヴィータ」と同じヒロインです。

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