雪が舞う





「ホワイトクリスマス…か…」
幼い頃に一度、あったらしい。あいにく自分は覚えていないが、世間の盛り上がり方は結構すごいものがあったとか。
月日は流れに流れ、再び雪の舞うクリスマスがやってきた。今年、今、この瞬間だ。…恋人と一緒にホワイトクリスマスを過ごしたい、その夢を叶える絶好のチャンスだったというのに。
「この公式覚えとけよ。残りの問題もこれを変形させただけだからな」
(…何が悲しくて、クリスマスに補習授業なんて受けてるわけ?私…)
元を正せば自分が悪いのだが、時間がないとの理由でこんな日に朝から晩まで補講をする教師も教師だと思う。
「独身だからひがんでるんじゃない?高校生のくせにクリスマスを楽しく過ごすなんて許さん、とか」
とは、共に補講を受けている友人の台詞である。
「はあ〜…」
窓の外を見たり、ノートをとったり、窓の外を見たり、窓の外を見たりしている内に外は暗くなってきた。雪は少し前に降りやんだようだが、今からでは明日の朝までに溶けきることはないだろう。…だからどう、ということもないのだが。
「はい、今日はここまで。次のテストは気合い入れろよ」
…やっと解放された頃には、既に五時を回っていた。







「……快斗?」
校門脇に立っている人物を見て、は目を丸くした。今日は、青子の家でやっているパーティーに参加しているはずなのだが。自分もこれから向かおうとしていたところだ。わざわざ迎えに来てくれたのだろうか、などと考えながら、ざくざくと雪を踏んで快斗の元まで歩いていく。
「よ。」
「どしたの?わざわざ来てくれなくても、ちゃんと今から行くつもりだったよ」
そのの言葉に、快斗が赤くなった鼻の頭をこすりながら応える。
「せっかくのホワイトクリスマスなんだぜ?みんなでワイワイなんてやってられるかよ」
そう言うと、の手を取って歩き出す。
(うわっ…)
…まさか、快斗がそんなことを考えていてくれたなんて。予想していなかった快斗の気持ちが嬉しくて、頬が紅潮した。
しばらくそのままざくざく進んでいると、街灯もない並木道で快斗が急に立ち止まって言った。
「ほら、この前あっただろ?えーと…冬のカナダとかいう韓国ドラマ」
「韓国なのになんでカナダなの?ソナタでしょ、ソナタ」
「そうそれ。でさ、ちらっと見たんだ。雪合戦してるシーン」
「雪合戦…」
ドキン、と胸が高鳴る。母親につられてちょっと見ただけだが、そのシーンはよく覚えていた。男優(名前は忘れた)が、女優(同じく)に投げた雪玉を割ると、中からネックレスが出てくるというシーンだ。
ー」
「え?」
すっかり自分の世界に入っていて気付かなかったが、快斗はいつのまにか大分離れた場所にいた。その手には、雪の…
「プレゼントだよ」
からかうように言いながら構えたその仕草が、ドラマのワンシーンと重なる。…あれを、受け取るんだ。
「うんっ…」
言って、受け取る体制を整えようとしたその時。

ズドンッ!!

雪合戦にあるまじきスピードで投げられたそれは、の後ろに立っていた木にめりこまんばかりの勢いでぶつかった。その衝撃で、枝に積もっていた雪がどさどさと降ってくる。
「ちょっ…そんな剛速球、受け取れるわけないでしょ!?」
「オレがそんなクサいことするかよ。それより、ちゃんとよけろよー」
「おわぁっ!?」
次々に投げられる雪玉は、こちらが受け取ることを前提としているような生易しいものではなかった。ズドン、ドシン、と木に当たる度に上からまとまった雪のかたまりが降ってくる。たまったものではない。
「快斗っ、いい加減に……!」
「…っし、ラスト一球!」

ドンッ!

もうほとんど真っ暗になっているにも関わらず、それもまたの真横を通り抜けて木に命中した。既に枝にはほとんど雪は残っていなかったが、わずかに残っていたものも全て落下する。
、こっちこっち」
「?」
ちょいちょいと手招きされ、疑問符を浮かべながらも快斗の元へ向かう。雪に足を取られながらもようやくたどり着くと、快斗はなんとも楽しそうに笑いながら言った。
「よーく見とけよ」
その視線を追っていけば、雪が全て落ちたあの木へとたどり着く。意図がつかめずにいるに軽くウィンクすると、快斗は高らかに叫んだ。
「It is a show time!!」

パァァアァッ。

「! わぁっ…」
赤・緑・青・黄……様々な色の電球が一斉に輝き出す。ほんの一瞬前までただの立ち木だったそれは、今や立派なクリスマスツリーになっていた。雪を落としていたのは、このためだったのだ。
「すげーだろ?」
「うん、うん…すっごい!すごいよ快斗!」
それを聞いて満足そうに頷くと、の前にぽんっと花束を差し出して言う。
「メリークリスマス、
「…メリークリスマス!」
暗闇の中照らし出された二人の顔は、ツリーに勝るとも劣らないほど輝いた笑顔だった。




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高校時代、クリスマスに数学の補講を受けたのは何を隠そう私です。ええ、虚しかったですよそりゃあもう…。クリスマスっていうと、ロマンチック=キッド、て感じなんですが、敢えて快斗にしてみました。キザ抜きで楽しいクリスマスとかもいいよなー、と。立ち木に電球はキザじゃない…ですよね?(笑)

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