「裏切り者ォ!!」
「うわっ…って、何しよんねんこのアホぅ!」
突き出された木刀に、平次は慌てて身を引いた。普通、自宅の玄関を開けた途端に木刀が飛び出してくるようなことはない。
「自分の胸に聞いてみれば!?この…この……流しソーメン!!」
言うなり走り去ったに、平次は呆気に取られた。
「…はァ?流しそーめん?オレか?」
…そもそも、なんではあんなに怒って……

「………あ。」

今日は剣道の対校試合があって、それがの初の公式試合で、見に行く約束をしていて、自分はそれを忘れて…
「…せやった…あかん、どないしよー…」
…東京へ、行っていたのだった。





『はぁ?約束を破ったときの対処法を教えろだぁ?』
「せや!約束やぶりの達人のお前やったら、うまい切り抜け方知っとるやろ?」
その言葉に、電話の向こうの相手…江戸川コナンは眉をひそめた。
『知るかよ…。けど、なんでまた破っちまったんだ?』
「あー…まぁ色々あってなァ…」
直接の原因は東京へ行ったことだが、元を正せば忘れていた自分が悪い。それきり黙り込んだ平次に、コナンは溜め息をついて言った。
『…とりあえず、オレと電話してる場合じゃねーのは確かだと思うんだけどよ』
「……!」
その通りだ。
「工藤、また大阪来たらウマいもん食わしたるさかいな!」
『おい、はっと…』
ピッ。
通話を切り、携帯をポケットに突っ込む。
「待っとけや、…!」




カツンッ。

…カツンッ。

「…?」
窓に、何かが当たっている。制服をしまって、ベッドに横になって、それでもまだ音はやまない。
「なんなの…?」
仕方なく窓を開けて下を覗き込めば、つけもの石みたいなでかい石を構えている平次と目が合った。
「ちょっ…窓破壊する気!?何してんのよ!」
「…あ、
「……あ」

ピシャンッ。

慌てて窓を閉める。
(なんで平次がいるの…!?)
カーテンまでぴっちりと閉めようとしたとき、下から「投げんでー」という声が聞こえた。慌てて覗けば、ちょいちょいと下を指す平次の姿。…降りてこい、ということらしい。
「…なんで私が…」
とはいえ、窓を破壊されてはたまらない。仕方なくは、表へと出ていった。
「……何か用?」
「あ、えーと、その、な…」
(あかん…なんも考えてへんかった…)
とりあえず無我夢中でここまできたが、そこから先を考えていなかった。
「…待ってたんだよ?」
「え…」
「来るって言ったから…だから待ってたのに…」
じんわりとにじんだ涙で、目の前の光景がぼやけて見える。
「嘘吐き…」
……」
なにを言われても、文句は言えない。自分が全て悪い、が泣いているのも自分のせいだ。
…それでも、泣いてほしくないなんて。自分は、なんとわがままなんだろう。


「ひどい、ひどいよ…」


「〜〜〜あーもう、そんなんで泣くなや!!」
ぐしゃぐしゃと髪をかきむしって言った平次に、は目を丸くした。
「なにそれ!普通はこう、謝るとか、優しい言葉をかけるとか…」
「忘れたんはオレが悪かった。すまん。せやけどな、泣くほどのもんでもあらへんやろ?」
そう言って、の頭をぽんぽん、と軽く叩く。
「〜〜だって、初めての試合で…」
「またなんぼでも見に行ったるって」
そう言って、にっと笑う。
「まだこれから先も、試合あんねやろ?」
「…うん…そうだね。あとの方が、もっとうまくなってるし…」
はそう言うと、苦笑した。
「こんなんで泣いて、ごめん」
「気にすんなて。もとはオレが悪いんやし…せや、これからウマいもんでも食いにいこか?初試合終了パーティーてのはどや?」
「え?いいの、行く!」
平次のオゴリね、と言うの言葉、慌てて財布を覗き込む。
…なんとかなりそうだ。
「ほな、行こか!」
「うん!」





「…どうなったのかくらい連絡しろよ…」
黙り込んだままの携帯に、コナンは小さく溜め息をついたのだった。




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