寒い。
どうしようもなく寒い。
「…もーヤダ。珈琲いれよ…」
億劫だなあと思いつつ、もそもそとベッドから起き出す。一旦横にした体を起こすのは、至難の業だ。
(今日のアクマは手強かったもんなあ…)
湯を沸かしながら欠伸をかみ殺す。マグカップを棚から出し、インスタントを入れてスプーンを用意する。そのままぼーっと突っ立っていると、やがてしゅんしゅんと音が聞こえ湯が沸いたことを知らせた。
(これ飲んで、あったまってから寝よ…)
そのままベッドに戻ろうかと思うが、一旦目覚めた体を眠らせるのは難しい。思案してから、珍しくあてがわれた個室を出て屋上へ向かった。



「わー、星、きれー…」
見上げた夜空は、満天の星空。
それでも寒さは確かに感じるので、湯気を上げるマグカップを両手で持ち直し、口に運ぼうとした瞬間。
「サンキュ」
ひょい、と横手から伸びてきた手に、マグカップを奪われた。
「………へ?」
「わざわざ俺のために持ってきてくれたんさ?気が利くねえ」
ずずず、と自分がわざわざ入れた珈琲を飲まれた効果音が響き、そこでようやく硬直をといた。
「ラビッ……!!」
ぐわっと振り返り、その手からマグカップを取り返そうとして見事に失敗する。
マグを上に掲げたまま、ラビはきょとんとして聞いた。


「あれ、違うの?」


「なんであんたが屋上にいることも知らないのに!私が珈琲持ってくるの!」
「なァーんだ、残念」
そう言いながらもマグを返すことはせず、ラビがのんびり言う。
「まあいいさ。この偶然に乾杯、ってね。一緒に飲むさ」
「…乾杯もなにも、マグ、一つしかないんだけどね」
ラビから戻ってきたマグから珈琲を飲みつつ、ため息をついて返す。
「まあいいや。かんぱーい」
「かんぱーい」
ラビの手が空を切り、そのままマグをさらっていく。
「……私がいれたんだけど。」
「気にしない気にしなーい」

…結局、布団に戻ったのは明け方近くだった。




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