今日はなんだか、とても気持ちの良い朝だった。 目覚ましが鳴ってすぐ起きることができたし、 いつもよりトーストの焦げ目が綺麗についたし、 牛乳を一気飲みしてもお腹が冷えなかったし、 鞄の中身は昨日の夜のうちに準備できていた。 「いい感じじゃない!」 バイオリンを片手に、鼻歌を歌いながら家を出る。この調子なら、いつもみたいに教室に駆け込む必要もなさそうだ。 …きっと、そんな朝だから。 そんな朝だからこそ、見られた光景なんだと思う。 (あれ、月森くん…?) 先を行く人影を見つけ、小さく心の中で呟く。 疑問系だったのは、彼の後姿のせいだ。 (…でも、バイオリン持ってるし。やっぱり月森くんだよね…?) 確信が持てないまま、早足になって追いつく。そうして、ひょい、と顔を覗き込んだ。 「っっ!!?き、君っ!!」 「あ、やっぱり月森くんだ!おはよー!」 にこりと笑って言うと、月森は憮然とした表情で言った。 「…声を掛けるなら、もっと早めに後ろから掛けてくれてもいいだろう。驚くじゃないか」 「うん、そう思ったんだけど、あのねー…」 くすくす笑って、すっと自分の後ろ頭に手をやる。 「すごいはねてるよ」 「!」 ばっ、と慌てて頭を押さえつける月森を、くすくす笑って見つめる。 「月森くんでも、そんなことあるんだね。びっくりしちゃった」 「…当たり前だろう。」 平静を装いつつ髪を撫でつけ、月森は憮然として返した。 「でも、学校に着く前でよかったじゃない?」 「…ああ、そうだな。」 そうして、小さく続ける。 「……見られたのが、君でよかった。」 「え?何か言ったー?」 「いや、何も。」 「そう?あ、鏡いるなら貸すよ」 「必要ない」 「遠慮しなくていいのにー」 …今日はなんだか、とても気持ちの良い朝だ。 ---------------------------------------------------------------- BACK |