「…でね、昨日見たんだけど、その番組では」
「へえー」
「……新一?聞いてる?」
「聞いてる聞いてる」
完全に上の空で返され、むくれる。
新一の家は本に囲まれているし、その本に囲まれて育ったし、本の虫だとも知っている。
…知ってはいるけれど、やっぱり。
(つまんないなー…)
どさり、とソファーに背を預け、そのままずるずると下がっていく。
ちょうど目の位置に、組んだ新一の足が見えて、くすぐってやろうかと思ったが、
(蹴られそう)
…そう思って、やめておく。
「ねー新一ー」
「おー」
「………。」
一体、どこまで話を聞いているのだろう。
不意にそんなことを確かめてみたくなって、心の中に悪戯心が顔を出す。
「昨日、また池田湖にイッシーが出たって。テレビでやってた」
「へー」
そこまで言って、ひょいと新一の顔を覗き込む。
「っ、」
「ねえ、新一も見た?」
「……っ、え?」
瞬間、虚を付かれたように呆けた顔をして、すぐさまなんでもないように返す。

「あーそれね、見た見た」

「………っぷ!あはははは、やっぱり全然聞いてない!」
本来なら、怒るところかもしれないのに。
もう、ただただおかしくて笑いがこみ上げるのを抑えることができなかった。
「な、なんだよ!オレ、おかしなこと…」
「私、イッシー見たかって聞いたのに」
「な…オメー、なにいい加減なこと言ってるんだよ!いるわけないだろ!」
「見たっていったのは新一ー!!」
「はめやがったな!!」
結局、ソファの上をゴロゴロ転がって。
はからずも、楽しい時間を過ごすことができたのはラッキーだったかな。




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