いちいち信憑性がなさ過ぎて、怒る気にもならないやつがいる。 明日行くといえば来ない。 今度までに買っておくといえば買っておかない。 約束があるというときはない。 だから、もう全てを逆にとってみることにした。 「オッケー、すぐ行く」 …と、言われたら、すぐにその場には向かわず30分ほどしてから行くとちょうど落ち合えた。 「この仕事?明日までにはやっとくよ」 …と、言われたら、5分おきにメールをして催促した。(そうするとギリギリ間に合った) 「お前さあ、なんか最近妙に俺の扱いがうまくない?」 「そう?」 萩原にそう言われ、素知らぬふりで珈琲を口に運んだ。 「そうだって。実際、俺に仕事回す時大体お前通すじゃん。周りにもそう思われてんだろ」 (…本当にね。) ここまで体得するのに、人がどれだけ苦汁を飲まされ、苦労したと思っているのか。 そんなことを考えながらため息をついていると、仲間の一人がひょいと顔を出した。 「お、珍獣使いと珍獣。お休み中?」 「珍獣?」 「珍獣使い?」 「そうそう、聞いてよー!私今度結婚するのー!」 二人の抗議の声はどこ吹く風で、にこにこしながら言う。 「へー!おめっと。相手は刑事?」 「まさか。別口で紹介してもらったのー。祝儀弾んでよね」 「スルメでもはさんで渡してやるよ」 「つき返すからヨロシク」 そんな軽口を叩いている二人の横で、やや真剣に考え込む。 (結婚…か……) そう、いい加減そういう年になっている自覚はあるのだが。 如何せん、相手、が。 「…ん?」 同僚をからかいながら見送った萩原が、そんな様子を見て顔を覗きこんでくる。 「…もしかして焦ってんの?」 「余計なお世話」 「だーいじょうぶだいじょうーぶ。きっとあれだよ」 「待っ……!!」 頭の中を、反対の法則がよぎる。まずい。こいつに、その先を言われたら。 「もうすぐじゃない?」 「終わった…………!!もう絶対当分結婚できない!!」 力尽きたように言われ、萩原が不満そうに言う。 「なんだよソレ。俺疫病神か何かか?」 「あんたがーっ!言ったことは、全部逆に…なるのっ…!」 なんだか本気で泣きそうになっていると、頭の上に、ぽんと手を置いて言う。 「俺は絶対もらってやんねーからな」 「……え?」 瞬間、呆気にとられて。 「んじゃなー」 呆けている隙に、萩原はさっさと戻ってしまった。 (…私、今、逆になるって言ったのに。) その、直後に。 「…………崩れないと、いいんだけど、法則。」 そんなことを小さく、呟きながら。 紙カップを握りつぶし、ほんの少しだけ、はにかんだような笑みを浮かべた。 ---------------------------------------------------------------- BACK |