温暖化とか、異常気象とか、オゾン層の破壊とか、少子化とか(これは日本だけか)、…なんていうか、「地球の滅亡」なんて言葉がちょっと現実味を帯びてきたかも、なんて思っちゃう。もう、虚言だとかいえないんじゃないかなあ。
「妄想癖に付き合う趣味はねーなぁ」
「妄想じゃないよ。割と現実的な話」
一言で切って捨てた萩原に、が少々向きになって返す。
「現実的っていってもなぁ、いち市民の俺らには関係ないデショ」
「あんた警察官でしょ!公務員でしょ!」
ぎしっ、とソファをきしませ、身を乗り出して抗議する。そんなの手を軽く引っ張ると、力んでいた分あっという間に崩れて萩原の膝に倒れこんだ。
「…地球滅亡がどうのってときに、公務員も何もないんじゃないの?」
「研二ってさぁ、“もしも”とか考えたことないの」
「時間の無駄。今を楽しく生きるほうが大事」
上から降ってくる暢気な声に、が溜め息をつく。自分も何気なしに思いついたことを言っただけだが、こうも簡単にあしらわれてしまうと腹が立つ。
「じゃあ、最後にもーいっこ。暇つぶしでいいから考えてよ」
「なーにー?チャン」
ゆっくりと髪を梳きながら言われ、気持ちが緩む。…が、こんな状態で言うことでもないよなあ、とゆっくり身を起こすと、そっと萩原の頬に触れて言った。

「もし…世界に、私と研二、二人だけが残ったらどうする?」

…ゆっくりと、萩原が目を見開いていくのがよくわかった。ちょっと驚いたような、呆けたような。その瞳の中に、自分が映っているのまで良く見えて。時が止まったような錯覚に陥りそうになる。
「世界に、俺との…二人、だけ?」
「そう、二人だけ。他にはね、誰もいないの。」
確かめるように繰り返した萩原に、も答える。どんな答えを期待しているとか、そういうのじゃない。ただ単に、萩原がなんと答えるのか。それに興味があるだけだ。

「…殺してやるよ」

どくん、と。
強く、大きく、心臓が鳴った。
「殺してやるから、安心しろ。…を、独りにはさせねーから。の墓守をしながら、孤独に生きていくよ。…それが、俺の答えだ。満足か?」
言って、こちらを見やりニッと笑った。
「…っ、馬鹿……」
「おいおい、ただの暇つぶしで泣くなよ。そんな重いもんじゃねーだろ?」
「馬鹿ぁっ…!あのねぇっ、そ…それが、仮にも警察官の言うことなのっ…!」
「警察官じゃなくて、“萩原研二”としての答えだよ。わかってるだろ?」
ぺしぺしと、力無く萩原の胸を叩いていた手が、強く握り締められて止まる。
「じゃ、今度は俺から質問ね。の、最期の言葉は?これも暇つぶしね」
からかっていうようでいて、瞳だけが強い光を放っている。…私は、こういう研二に弱い。
「うん…うん、あのね。」
そんなのは、決まってる。これだけ。

「会えて……、良かった……。」

くしゃり、と髪をまぜられ、喉の奥からくつくつと笑みがこみ上げてくる。
「あは…、あははっ…、ふ…」
「ったくよー…暇つぶしにしては、話題が重すぎたんじゃねーのか?」
「ん…そうだったかも。馬鹿だなぁ、私。馬鹿なのは私だったね。ごめんね、研二」
流れる涙をぬぐわれていると、自然と笑顔になっていた。
「ばぁーか。謝ることなんてねーよ。俺は結構、いい暇つぶしになったぜ?…それに、泣くなよ。お前の涙には弱ぇーんだ」
「……うん。わかった。泣かない。ね!」
すっかり涙をぬぐって笑いかければ、満足そうな萩原と目が合う。
「まだ潰したりねーんだよなぁ。さて、残りの暇をどうしますか、姫?」
「…ふ、ふ。では、買い物でもどうですか?王子さま」
「いきなり現実的だなぁ。地球の滅亡はどうしたよ?」
「ほら、早く支度して!角のスーパー、確か4時から特売セールだった!」
「おいおいおい、マジかよ!?スーパーってなぁ…」
「はーい、出て出てー!」
「あーもうわかったから、押すなよ!」


…キィ、パタン。






「……会えて、良かったよ…研二。」
届いているだろうか。この空の、向こう側にいるあなたに。
目の前に広がる残骸を、散らばったガラスの破片を見て、…やがて、その景色が歪んで見えなくなる。
「…殺してくれるって、言ったのにっ…!っ…嘘つきっ、ばか研二っ…!!」

“泣くなよ。”

…お願い、今だけは。
「研二っ……会えて、良かったよっ……!」


泣くことを、許して。
明日になったら、きっとまた、笑って見せるから。




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