(……ん、)
何気なく通り過ぎようとした花屋の前で、吸い寄せられるように視線が止まる。それは、小さなマーガレットの花だった。淡いピンク色で、白を基調とするマーガレットの中では珍しく、そしてなんとなく浮いていて。
「……あの。」
「はい」
「これ、一本だけ色、違いますけど…」
「ああ、値段は一緒ですよ。」
「……はぁ…」
自分は、なぜこれだけ色が違うのかとか、他にはピンクはないのかとか、そういったことを聞きたかったのだけれど。どうもこれ以上尋ねても得るものはなさそうだ。
「…すみません。これ、マーガレット。花束にしてもらえませんか」
「はい。他のお花は何に致しましょうか」
「他…?」
マーガレット自体小さく、どちらかというともり立てる側の花だ。他の何かを足して、消されないだろうか。
「…その、ピンクのマーガレットを中心にして、白も何本か。あとかすみ草と…葉ものを。それでお願いします」





「…新一?遅かったね」
「あ、いや…ちょっと、な。」
「………?何か持ってる」
「や、これは!」
…言い訳を、考えていなかった。
突然花束を持って登場するなんて、一昔前の青春ドラマかと自分で自分の頭をぽかぽか殴りつけたくなる。ただ、……そう。ただ、似合いそうだと。に、この淡いピンク色のマーガレットが、似合いそうだと。そう思ってしまったのだ。
(…あー、くそ)
下手に言い繕ったら余計見苦しい。…そう思って素直に渡そうとするも、天の邪鬼な口は渡しながら余計なことを口走っていた。

「そこで特売やっててさ。」

…言ってから、即座に後悔する。特売…は、ないだろう。いくらなんでも。大根を買ってきたわけではないのだ。
「…特売?マーガレットを?」
きょとん、としつつ、花束を受け取り、は満面の笑みを浮かべた。
「…ピンクのマーガレット、可愛いね。ありがとう」
「オ…オゥ!」
がしがしと頭をかく。ふふふと笑って花を見つめるその姿とピンクのマーガレットは、やっぱり思った通りだった。…とてもよく、似合っていた。
「…っし、行くか」
「うん!」
そう言って、新一の元へと駆け寄る。
小さな花束を片手に、…もう片方の空いた手を、そっと新一に絡めながら。




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