「ウィンリィー!」
聞き慣れた、だが懐かしい声が聞こえる。どうやら今回もアポなしで来たらしい。
「…ったく」
それでも、自然と口元が緩んだ。…会えるのは、素直に嬉しいのだ。
「連絡入れてから来なさいって、いつも言ってるでしょー!」
「いてぇっ!?」
…適当に投げたスパナだが、どうやら命中してしまったようだ。





「…あんたはいつもいつも、あたしの愛する機械鎧をっ…!!」
「うわー!ウィンリィ、落ち着いて!兄さん死んじゃうって!」
用途不明の巨大スパナを振り回すウィンリィを、アルが必死になって止める。当たりどころによっては、一発で極楽浄土へ行けそうだ。
「オレだって壊したくて壊してるんじゃねーよ!!」
「壊そうと思ってたらとっくにアンタあの世行きよ!!」
ずがんっ!!
「ぐえぶっ」
スパナを脳天に食らい、エドが奇妙な声をあげて倒れた。
「ににに兄さんっ!?」
「…アル、そっち持って」
「え?」
わたわたしているアルの前で、ウィンリィがエドの腕を抱き抱えながら言った。
「どーせろくに寝てないんでしょ?…だったら、ここに来たときくらい休ませなくちゃ」
「ウィンリィ…」
スパナを振り下ろす以外に手段なかったの…?
などと言ったら自分の腕や足も破壊されかねないので、黙っておく。素直じゃない愛情表現も、暴走気味のエドにとってはちょうどいいかもしれない。
(…ねぇ、兄さん?)
白目をむいたままベッドに運ばれてゆくエドを、アルは幸せな、ちょっと羨ましいような…そんな思いで見つめていた。





ぐっ、ぱっ。ぐっ、ぱっ。
「…っし!」
握ったり開いたりを繰り返していた右手を拳型に握りしめると、ぱんっと左の手のひらを叩く。
「前より動きやすくなったんじゃねーか?」
「…あたしだって、進歩してんのよ」
半分寝言のように言う。いや、実際そうなのかもしれない。
(…無理、させちまったな)
陽の当たる窓辺でうとうとしているウィンリィの髪を、ゆっくりと梳く。微かに微笑んだと思った次の瞬間には、寝息が聞こえてきた。
「…サンキューな」
そう言ってその場を離れようとすると、ふいにコートの裾を引かれ、エドはその場に立ち止まった。
「あたしの…機械鎧、…壊さない…でね……」
正真正銘の寝言だったが、エドは振り向いてしっかり答えた。

「大丈夫!!……多分。」

起きていたら巨大スパナものだ。コートのを掴んでいた手をそそくさと離すと、エドは急いで外へ向かって駆け出した。
「…ばぁか。何度だって直してやるってば」
とろん、とした目をうっすら開けると、ウィンリィはふてくされたような、呆れたような表情を浮かべ、今度こそ眠りの淵へと落ちていった。





「行くぞ、アル!」
「兄さん、機械鎧の調子は?」
「ばっちりだぜ!」
君のくれた手足があるから、今日も前へ進める。拳を握り、足を踏み出し。
…大事にする、壊さない。大丈夫だ……多分。




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