「…もう、そんな季節なのか」
風にあおられ、ばたばたと音を立てているコンビニの旗を見て、新一はぽつりと呟いた。
『中華まん始めました』
…自分が気付かなかっただけで、旗自体は割と前から出ていたのだろう。野ざらしの中、既に大分くたびれて見える。
(…去年のを使い回してるんじゃなければ、な)
この不景気のご時世、その可能性も十分にあり得るのが悲しい。果たして今年は何回口にするのだろうか…などとぼんやり考える。なかなかどうして、これが結構うまかったりするのだ。
「お待たせ!」
ウィーン、と自動ドアが開き、中からが出てきた。片手には鞄、もう片方にはコンビニの袋を下げている。
「オゥ、あったのか?」
「うん!」
現在、まだ登校前である。“ノートが切れてるのを忘れてた”というの言葉に、朝からコンビニのご厄介になることとなったのだ。
「新一!」
「……ん?」
歩きだそうかと一歩踏み出したところで、ふいにかけられた声に振り返る。…いたずら前の子供のような、わくわくした目つき。鼻腔をくすぐる匂い。何をしようとしているのかは一目瞭然であったが、あえて何も気付かないふりをする。先回りして言うと、が怒るのもまた明らかだったからだ。


「ねーねー、アンマンと肉まん、どっち好き?」


…ほら、来た。
「朝っぱらから買い食いか?見つかったらどーすんだよ」
「…言いながら手が伸びてますよ?新一くん?」
笑いながら言って、「どっち?」と再び聞く。
「…肉まん」
「えー!今日は私、肉まんの気分だったのにー!」
言って、さっと新一の手から袋を奪い取る。
「じゃーアンマン」
「むむ…でもアンマンも捨てがたい…」
「オメーなぁ…」
やれやれと息をつき、真剣に悩みだしたから袋を取り上げる。
「あ!」
「…こーすれば文句ないだろ」
言って、それぞれを半分こにして一つずつに手渡した。
「…うんっ!」
あつあつの肉まんを頬張りながら、ちらりと横を見ればなんとも幸せそうなの表情が目に入って。
(…ま、たまには)
こんな朝も、いいかな…。







「新一ー、ー、生活指導の先生が呼んでるけど、何かしたの?」
「「………げ。」」
蘭のセリフに、二人そろって硬直する。…小さな幸せのためには、大きなリスクを背負わなければならないらしい。



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