「よォ佐伯、持ってきてやったぞ」
「ばっか!何やってんだよ!!」
ハリーがヒラヒラと手にして見せているモノを、光の速さで佐伯が奪い取る。
「…まさか本気で持ってくるとは思わなかった。つか頼んでないだろ、持って帰れ」
「えーせっかく持ってきてやったんだから、せめて一通りは目通せよな」
「………ここで俺が、あと何回持って帰れと言ったらお前は持って帰ってくれるんだ」
「100万回」
その答えに、ハアと深い息をついて。
佐伯は、仕方なく「ソレ」をカバンの中にしまいこんだ。






「ようこそ。珊瑚礁の、もう半分へ。」
そう言って部屋に通せば、はぐるりと室内を見回した。
「うわぁ、ステキなお部屋だね!」
(…お前なら、そう言ってくれるだろうなって思ったんだ)
ちょっとした自慢の部屋。自分にとってそんな大切な存在である部屋を、にも気に入ってもらえてよかった。
「海も見えるんだ」
「うん…」
答えて窓の外を見るの横顔が、…とても、綺麗だ。
(〜〜って!何を考えてるんだ俺は!!)
ぶんぶんと首を振って、佐伯がばっと立ち上がる。
「俺、ちょっと珈琲いれてくる。珊瑚礁ブレンドでいいよな?」
「手伝うよ?」
腰を浮かせたに、「いいからいいから」と手で制して部屋を出る。
「……っふー。」
部屋を出て、ドアに背をもたせかけて息をつく。
(自分の部屋で二人きり…って、やっぱ結構緊張するもんなんだな)
そうだ、自分の部屋…つまり、自分のテリトリー。
そこに自分以外の誰かと二人だから、緊張しているだけだ。
「別に…相手がだからとか、そんなのは関係ないからな、うん」
自分を説得させるかのように言って、佐伯は珊瑚礁へと降りていった。





「…あれ?」
ベッドの下から覗く、茶色い封筒。
この部屋において、それだけ妙に浮いている。
「なんだろ……」
悪いかな、と思いつつも、気になりずるずると引きずり出してみる。
(…?)
びっちりとガムテープでとめられたそれは、開封した後が見られない。
…そんなものが、何故隠すように置いてあるのだろう?
(ますます気になっちゃうよ…)
もしかしたら、「バリスタへの道」とか「珈琲を極めろ!!」とか、そんな本かもしれない。けれどそんな本を読んでいると知られるのが恥ずかしくて隠しているとか…?
「ずるい!瑛くんばっかり…私だって珈琲もっとうまくいれられるようになりたいのに!」
の特技、早とちり&勘違いが発動し、もう躊躇うことなく袋に手をかけた。
「おい、珈琲いれてきた…ぞ…」
言って、ガチャリと佐伯が扉を開けた瞬間。
視界に飛び込んできたのは、今まさにその封筒から本を取り出そうとしているだった。
「わーーーーーーーーーー!!!!!!!!」
わずかな理性が働きかろうじてカップを放り投げるのだけは避け、それでも床に叩きつけるように置いてから一息での元へ走り寄る。

「見ちゃいけません!!」

ばっ、との視界を両手で封じると、それに驚きは袋を取り落とした。
「ひゃあっ!?」
それに、佐伯がちらりと視線をやる。そこから覗くのは、ピンクの表紙だ。タイトルは……見たくない。
(くそっ)
やっぱり受け取るんじゃなかった、と心の中で舌打ちする。渡された状態のままで数日後につき返してやろうと思っていたのだが…まさかが手にするなんて、思いもしなかった。
がん、とそれを袋ごとベッドの奥深くへと蹴りやり、ほうと息をついた。
「て、瑛くん…?」
「ん?」
「どうしたの、急に…」
視界を奪ったままの佐伯の手に、の手がそ…と添えられて。
「見えないよ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
自分がしたことが、なんだか急速に恥ずかしく感じられる。
ばっ、とを解放すると、赤くなる顔を手で覆って咳払いした。
「…勝手に見るな。危ないだろ」
「え、あ、危ない?私てっきり、珈琲の専門書かなんかだと…」
「……男の部屋で勝手に色々漁るな。これ、お父さんからのお願い。」
ため息をつきながら言って、床に置いていた珊瑚礁ブレンドを手にの元へと戻ってきて。
(…でも、なんだ?こいつが他の男の部屋にいるところなんて…)
考えたくない。腹が立つ。なんだか無性に、イラつく。
「………」
理由のわからない怒りに佐伯が眉をへの字にしていると、機嫌を損ねたと思ったのだろう。が慌てて、「ごめん、気をつける」と弁解してきた。
「……ん、ああ………」
今はまだ、わからないけれど。
(とりあえず今は)
……こいつといられる時間を、大切にしよう。





「はーりーやーくん?ちょっと屋上まで来てくれるかな?」
「わー佐伯…素敵な王子スマイル…こえー……」
後日。
ハリーは、佐伯に貸した雑誌を顔面キャッチで返却される羽目になる。




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