「瑛くん!どうしよう、このままだと私補講になる!!」
「なっ…!……コホン。さん。ちょっと屋上に来てくれるかな」
「えっ…いや、それは……」
「来て、くれるかな?」
「……はひ」
脅しを込めた声色で、顔には笑顔を張り付けたまま言われ。…は、半泣きで大人しく頷いた。





「…どーいうつもりだコラ。」
「あの…不良みたいになってます優等生」
「ウルサイ。お前が補講だなんて言うからだろ!珊瑚礁どうする気だよ」
「それなんだよぅ…」
期末試験が終われば、夏休みが始まる。珊瑚礁にとってもかきいれどきだ。それを丸々一週間つぶして補講だなんて、瑛が怒るのも無理はない。
「…何がヤバいんだ」
「英語と…日本史、それに数学……」
「………ほほぅ?」
「ご、ごめんなさい!一応頑張る!ギリギリまで諦めないから!!」
「…………。」
そう言えば、と。
今にもチョップが飛んでくるんじゃないかと怯えているを見ながら、瑛はふと今までを思い返していた。
珊瑚礁でのバイトが遅くなる日もあったし、片付けが終わらない時は最後まで付き合って仕事をこなしてくれていた。確か、手芸部にも所属していたはずだ。展示会もあるようだし、そちらはそちらで手を抜くわけにもいかないだろう。
(…こいつだって、頑張ってんだよな。)
努力もせずに弱音を吐いてるわけじゃない。そしてその責任の一端は、自分にもあるのだろう。そんなことを言ったら、無駄に必死に否定するだろうから絶対言ってやんないけど。
「…英語は、とにかく単語を覚えろ。範囲になった単語をひたすらだ。文法が理解できなくても、単語がわかればなんとか読解はできる。穴埋め対策で基本の構造だけは丸暗記しろ」
「て…瑛くん?」
「あいつ問題つくるのめんどくさがるタイプだから、基本構造そのまま出してくる。日本史は年号暗記だ。年号と事件覚えとけば、あとは芋づる式で頭に入ってくるしアウトプットも楽になる。俺の語呂合わせ帳貸してやるから、今日のバイト終わりに言え」
「あの……」
「最後に数学。こればっかはやらなきゃどーにもなんないから俺が見てやる。明日から試験日まで毎日30分…いや、1時間だ。1時間早く登校しろ」
「えと…それって…」
「…困るんだよ。お前がいないと。じいちゃんも寂しがるしな。いいか、俺は諦めない。だからも、最後まで諦めんな」
そう言うだけ言うと、最後に「ていっ」とチョップをかましてさっさと屋上からいなくなってしまった。
「瑛くん…」
モロにチョップを食らったおでこを撫でながら、小さく呟く。
「…ありがとう。」
ありがとう、私も諦めない。
諦めないからね。





「…昨日は何個。」
「200…覚えた…」
ぐったり言ったに、瑛は容赦なく言った。
「よし、昼休みにテストする。」
「うええっ!?」
「英語の基本は暗記がすべてだ。…じゃあ、数学始めるぞ」
「はぁい」
眼鏡をかけた瑛くん、久しぶりに見たかも…。
そんなこと考えてるって知られたらチョップの嵐だから、慌てて視線を外したけど。
「…次。」
「ん………?」
が眉をひそめる。それを見て、瑛は軽くため息をついて教科書を示した。
「公式にあてはめればできる。教科書開け」
「公式……?」
「だから、」
の手から教科書を取り上げると、目指すページを示す。

「んで、この式にxを代入して……。」

「………」
「? 、どうかしたか」
「あ…………うん。ありがとう、よくわかった」
…今、教科書を見ていた、ちょっと伏目がちの瑛くん。…すごく、カッコ良かった。
(…と、いかんいかん。集中しなきゃ!)
こうして瑛の側にいられる時間が、空間が、…心地良い。これから先もそうしていくには、補講など受けている場合ではないのだ。


…そうして毎日毎日頭が痛くなるくらい勉強して、瑛のしごきを受けて。

「……瑛っ!」
「お、。どうだっ…うわっ、ひっつくなっ!」


…夏休みが、始まる。




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