「…………フゥ」 カタカタカタ、とキーボードを叩く手をとめる。 デスクワークに手間取ることはあまりないが、何しろ今回は量が膨大であった。自分にしか説明できない事案をため込みすぎた結果なので、自業自得ではある。 液晶画面を見続けることに疲弊した目を休ませようと、赤井は視線を外した。外した視線の先では、が何やら熱心に書き物をしているのが見える。 「……何をしているんだ?」 「明日のプレゼンの資料作りです!」 「明日」 ちら、と壁にかかっている時計をみやると、時刻は1時を回っていた。 「…確認するが、明日とは」 「日付変わって、今日ですね」 ようやく資料がまとまったのか、ノートパソコンを立ち上げながら言う。これからパワーポイントの作成を始める、といったところだろうか。 「………」 今からか?と口にしなくても、表情に出ていたらしい。どこか拗ねたような口調でが言う。 「間に合わないと思ってるんでしょう?でも大丈夫ですよ、私テストも一夜漬けのタイプでしたから」 その『大丈夫』は、いったいどこにかかる『大丈夫』だというのか。 根拠のない自信をみなぎらせるを見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。 それは苦笑でもなく、失笑でもなく。 あえていうのなら、自信の伝染だ。 「何とかなるなる!!」 そういうと、はようやく立ち上がったパワーポイントへの打ち込みを始めた。 (…何とかなるなる、ね) 未処理の書類の山を見上げながら、小さく口の中でつぶやく。 が言うと、なんだかその気になってしまうのだから不思議だ。 「」 「はい」 「何とかしよう」 「……はい、もちろんっ!」 にっこり返された言葉と笑顔に、相変わらず根拠はなかったけれど。 …きっと、夜明けは笑顔で迎えられるのだろう。 ---------------------------------------------------------------- BACK |