「…なんでさ、ウチの制服って学ランなんだろ」
「へ?何、突然」
がぽつりとこぼし、青子は不思議そうに首をかしげた。
「なんで?何か問題でもあるの?」
「えー…だってさ、学ランだとネクタイないじゃん」
「まあ、ないけど。それが?」
…自分が考えていることを、この純粋な少女に伝えて良いものだろうか。
しばらく悩んでから、は明後日の方向を向いて答えた。
「ほら、男子のネクタイがほどけてたら結んであげて、結ぶ練習できるじゃん」
「…あ、なるほど!」
ぽん、と手を打たれ、苦笑する。…ここまであっさり誤魔化されてしまうのもどうかと思うが、それが彼女の良いところだ、とも思う。
食べ終わった弁当箱を包むと、は目一杯伸びをした。
「さて、じゃー5限目いきますかっ!」
「うん!」
いつもなら昼を一緒にするはずの快斗は、ここにはいない。目下喧嘩中である。
予鈴が鳴るのを聞きながら、は不意に今朝の新聞記事を思い出した。
(…あ、そっか。)
何も、制服である必要はないんだ。ただ、ネクタイがあれば。
「…ふむ。」
見上げた空は快晴。…今夜はきっと、月が出る。





「キッドはどこだ!!」
「奥だ!右手のビルに…」
「くそっ!逃がすなー!!」
(…バーロ、オメーらに捕まるようなタマじゃねーっての)
『右手の奥に』なんて叫びながら左手のビルにこっそり忍び込み、快斗はほくそ笑んだ。毎度の事ながら学習能力がない。こう簡単に操作されてしまうのも問題だろうが、まあ白馬のような人間がいたらいたで厄介なので大人しく感謝することにする。
「さーて、今日の獲物は、っとー…」
とんとんとん、と階段を昇る。屋上に出れば、月が出ていることだろう。

キィ……

僅かに軋む扉を押し開けると、輝く月が快斗を出迎えた。冷たい夜風にマントを靡かせながら一歩進み、そこで快斗は固まった。…誰か、いる。
「大正解」
「………?」
耳に馴染んだ声に、眉をひそめる。
「オメー、なんでこんなところにいるんだ」
「ご挨拶だね。快斗を待ってたに決まってるじゃん」
「…………」
どこからなにをつっこめばいいのか、快斗は逡巡した。まず自分とは今現在絶賛喧嘩中で、今日も学校では一切口をきいてくれなかったのに、当たり前のように話しかけてきていること。
そして、何故こんな時間にこんなところにいるのかということ。しかし快斗が疑問を口にする前に、のほうが切り出してきた。
「ごめん」
「…………へっ?」
……今、何て?
「今回は私が悪かった。だから、ごめん」
「ちょ…」
片手に持っていた宝石を、ズボンの後ろポケットに突っ込み、慌てての元まで駆けていく。
「どうしたんだよ、急に」
いつも絶対に折れないが、こんなにあっさり折れると逆に心配になってしまう。それを察したのか、はそっぽを向いて答えた。
「…別に。とにかく、謝りたかったの」
「…わかった。とりあえず、ここ離れるぞ」
まだ警察がうろついてるからな、と続けてくるりときびすを返した快斗の背中に、再びの声が飛んできた。
「それと」
「?」
何だろうと振り向いた瞬間、快斗は不意ににネクタイを引き寄せられ、そのままバランスを崩し―――――

バッ!

…快斗は、唇を押さえ、顔を真っ赤にして飛びずさった。
「おまっ…今…!」
「…それと、コレ、やりたかったの。」
ちろりとイタズラっぽく舌を出すと、はさっさと屋上出口へ向かった。
「ちょ、待てっ、オメー……」

「ノーコメントで。」

それだけ言って、バタンと扉を閉める。
(…………うわああああっ!!)
今頃になって火照ってきた頬を押さえ、飛ぶように階段を駆け降りる。きょとんとしたまま、急速に近付いてきた快斗の顔。…やっぱり、カッコ良かった。
「私…すごい大胆なことしちゃったかも……」
でも、どうしよう、これは。

…癖に、なりそうだ。



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Happy birthday Sayura !!

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