(ドラマCD、霧のオグターレネタです。知らない方はコチラをご覧下さい)


「エドワード君」
「あれ?中尉じゃん。どしたの?」
うっかり温泉に入っているところを見付かり、「機械鎧が錆びる!」とウィンリィに追い出されてから。エドは別の場所へ移動し、片足だけ――無論右足だ――を湯につけていた。これだけでも結構気持ち良いのだ。
「私も温泉に入りたいんだけど、向こうには大佐や少佐がいるでしょう?ここ、いいかしら」
「え?あ、うん!もちろんいいよ!」
言って、慌てて足をあげようとしたが、それをホークアイが引き留めた。
「…その、悪いんだけど…見張っててもらえるかしら」
何かの間違いで、大佐が来たりしたら…と続けるホークアイを見て、エドは笑顔で答えた。
そういうことなら。
「おう!任せとけって!」
すぐに上がるから、と言ってホークアイが消えた岩場を、エドは暫し見つめてしまった。
…そこはそれ。エドとて年頃の男の子なのだから、気になるものは気になるのである。
「…って、これじゃあオレが不審者だな…」
…機械鎧の整備でもして、気を紛らわしとくか。
右腕の関節部を外し、まだ硫黄が、温泉が中に残っていないかチェックする。これで錆びたりしたら、また頭にスパナを食らうのは目に見えていた。…できればそれは勘弁してほしい。
「ぃよっ、と…あ、やべ、これ拭いておかねーと…」
左手と足を器用に使い、ねじを外したり覗き込んだり、と整備に没頭していると、エドの脇から突如人影が現れた。
「うわっ!?」
「…ん?何だ、鋼のか。こんなところで何をしている?」
「たっ…大佐こそ…」
…そこにいたのは、今最もここに来てはいけない相手。ロイ・マスタングその人だった。
(…ヤバい)
向こうへ近付かせてはいけない。絶対だめだ!
エドは、突然の事態に焦りながらも、頭をフル回転させて考えた。どうしよう、どうすればいい?
ロイはと言えば、どこから調達したのかバスローブなんぞを着込んできょろきょろしている。
(きょろきょろ…?)
「大佐、誰か探してんのか?」
「あぁ…先ほどから中尉の姿が見当たらなくてな。見掛けなかったか?」
「み…見掛けない見掛けない!!アイドンノウ!」
…我ながら、誤魔化すのが下手だと思う。ジト目でこちらを見てくるロイに、エドは冷や汗を浮かべた。
(この騒ぎ、聞こえてるよな…?中尉、早く上がってくれ…!)
中尉のために、というか、見付かったら自分が撃たれるんじゃないかという恐怖がデカい。
「あ…あ、そーいやあっち、あっちだよ!中尉あっちで見た!」
真逆を指差し、そう言って顔色を窺う。
…不敵な笑みを浮かべやがった。
「そういう場合はだな、大体その逆にいるものだ」

ぎゃーーーーーーー!!

そう言って岩場の方へ向かうロイのローブの裾を、エドは左手だけで必死になって掴んだ。錬金術で力ずくでも止めたいところだが、今は腕を外してしまっていてそれができない。
「あ、あのさ、大佐のためなんだって!マジで!だからっ…」
「…?まぁ、その話はあとで聞くとしよう。離したまえ」
「げえっ!」
発火布をちらつかせたロイから反射的に飛び退き、…しまったと思ったときには時既に遅し。

パンパンパンパンパンッ!!

…ロイが消えた岩場の辺りから、響く銃声音と悲鳴。続いて水音…また悲鳴。どうやら着水したらしい。



「だから言ったのに……。」



嗚呼、どうか願わくば。
次はあの銃口が、自分に向けられませんように…。



だがエドはそれから数分後、怖い笑みを浮かべたホークアイに追い掛けられる羽目になる。




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2004.6.9


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