「おまっ、ちょ…どっから見てもこれは有り得ないだろ!?」
「えー、そんなことないって。ねーアル」
「う、うん…」
『三人で分けて食べるんだよ』とピナコに渡されたケーキ。それを前に、エドとウィンリィは火花を散らしていた。
「おいアル…明らかにウィンリィのがでかいだろ…?お前もそう思うよなぁ…思うだろ…?」
「ぢょっ、兄さん、ぐるじぃっ…ギブギブっ!」
ぎりぎりとアルの首を絞め上げ、凶悪面で言うエドはまるっきり悪役である。
「あらー、エドは『隣の芝生は青い』って言葉知らないの?」
けろりとして言うウィンリィに、エドがぷつりとキレた。
「あのなぁ!これはどう見たってそーいうレベルじゃねーだろーが!!対比で言うなら5:3:3!もちろんウィンリィが5だ!!」
ずだんっ!と庭に設置した簡易テーブルに足を掛け、一気にまくしたてる。
「兄さん…それ足しても10にならないよ」
アルの冷静なツッコミは、続くウィンリィの声にかき消された。
「何よ!私は今育ち盛りなの!どーせあんたなんかそのままちみっこいんだから!!」
「だーれがマイクロどチビかーっ!!」
「ちょ、ねえ、二人ともやめなってば!そんなに暴れるとっ…」

ガターンッ!!

『…あ。』
「テーブル引っくり返っちゃうよ…って言おうとしたんだけど…」
遅かったみたいだね。
そう言って、アルは小さく溜め息をついた。
「あーっ!ケーキぐちゃぐちゃじゃない!」
落下したケーキを見て、ウィンリィが悲鳴を上げる。
「あーもう…」
ぐしゃぐしゃと頭をかいて、エドが空を仰ぐ。
「ばっちゃんに怒られるな」
そう言いながら、家の中へ引き上げようとした時だった。
「…ボクのは、無事だけど」
とっさに助け上げたケーキを、アルがおそるおそる差し出す。…引っくり返るのを予期して、なんとか救出した一切れだ。
(また喧嘩になるかな…?)
ちらり、とエドを見やると、風のような勢いでアルの元まで戻ってきた。
「マジかよ!でかしたぞ、アル!…ほら、ウィンリィ」
「…んぅ?」
えぐえぐと泣いていたウィンリィの前に、それを差し出す。
「これ、三人で分けて食べよーぜ!」
「…うん!」
ぱっ、と笑顔になったウィンリィを見て、エドがにかっと笑った。
…本当に、嬉しそうに。
唖然としているアルを尻目に、ウィンリィがにこにこしながらそれを三つに切り始めた。
「ほらアル、あんたもこっち来なさいよ!」
「お前の分も食っちまうぞ!」


「何だかなぁ。」


…なんで最初からこうできないんだろう。
アルは、本日二度目の溜め息をゆっくりとついたのだった。




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2004.6.24

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