街の灯りと、空の星。 彼は、二つの宝石の間を今日も飛ぶ。 (…ん?) 結局今日盗み出したビッグジュエルも、目的のものではなかった。そう簡単に手に入れられるとは思っていないが、やはり落胆はする。帰路につこうとビルの合間を飛んでいると、やや低めのビルの屋上に、一人の少女がいるのが見えた。普段なら気にしないのかもしれないが、時刻が時刻だ。 (何やってるんだ…?) 興味もあり、心配もあり。 キッドはゆっくりと下降していき、その屋上へと静かに舞い降りた。 「…こんばんは、お嬢さん。こんな夜中に、星と会話でも?」 「……え?」 唐突に掛けられた声に、驚いたらしい。慌てて振り返った少女は、遠目に見たときより大人びて見えた。年齢は…自分と、同じくらいかもしれない。 「…まぁ、そんなところです」 それ以上、貴方は誰なのか、と聞こうともせず。静かにそう答えると、頭上を見上げて寂しそうに微笑んだ。 「話し掛けるだけの、一方的な会話ですけど」 …そうか。彼女は…… 「どなたか、空にいらっしゃるんですか?」 その言葉に、小さくうなだれて答える。 「ええ。両親、が…」 そう言うと、少女は口を押さえて小さく肩を震わせた。 ……泣いて、いる。 自分でも、どうしてなのかは分からない。ただ、一人で泣かせたくないと。…思ったときには、体が動いていた。 「…え…?」 ふわり、と自分を包んだ真っ白なマント、続いて抱き締められる感触に、少女が戸惑いの声を漏らす。 「泣きたいなら、ココで泣けば良い。」 「……ありがとう、ございます…」 そのまま、他になにも言わず。 泣きやむまで、キッドは少女を抱き締め続けていた。 「あの、名乗るのが遅くてごめんなさい。私、って言います。」 キッドが飛び立とうと、柵に足を掛けたとき。彼女は、言ってにこりと笑った。先ほどの寂しい笑い方とは、違う微笑みだ。 「素敵なお名前ですね。私は…通りすがりの怪盗です。とても幸運な」 「…幸運?」 きょとん、として聞き返すに、軽くウィンクして言う。 「貴女のような素敵な方に出会えました」 「え…」 「また、来ます。…笑った顔の方が可愛いですよ、」 言って、ちゅっと頬にキスをすると、柵を蹴って飛び立った。 「ま…待ってますっ!」 真っ赤になって柵に身を乗り出して言うに、キッドは片手を振って応えた。 …彼女が独りで泣くことは、もうない。 ---------------------------------------------------------------- 2004.6.28 BACK |