私の彼は、とっても忙しい。
一番ひどかった時期は、今どの国にいるのかわからないくらいだった。だから、国内にいるとわかっている今は、まだマシなほうだよねって思ってる。
「それでよく保つよねえ」
しみじみと言われ、なんのことかと一瞬きょとんとしてから、あぁ、と合点がいったように頷いた。
「遠距離恋愛ってわけじゃないもの。しばらくは日本にいるって言ってたし」
「でもねえ…」
喫茶店に置かれたテレビでは、あまり穏やかとはいえない事件の報道がされている。その画面の端に写り込んでいるのは……
『あ、たった今!高校生探偵、白馬くんの指導のもと、警察に動きが!犯人確保に動く模様です!!』
(…下手な遠距離恋愛より、あんたのほうが大変な気がするけどね)
口には出さずにそう呟くと、もう一度テレビ画面を見てからゆっくりと息をついた。





『只今電話に出ることができません。ご用の方は―………』
無機質に響く、るすばん電話の声。から電話をかけても、繋がることの方が少ない。それでも、メッセージを残しておけば、あとで必ず連絡をくれる。時間が遅ければ、気を遣ってメールにしてくれたりもする。
です。今日もお疲れ様。テレビに出てるの、見た。元気そうで良かった。…じゃあ。」
ピッ。
…電話を切って、ほぅ、と息をつく。室内から空を見上げれば、空にはすでに星が瞬いていた。この時間に携帯に出られないのなら、今日は泊まり込みかもしれない。
「………ちょっと、寂しいよ。」
星に向かって小さく呟き、ふっと笑みをこぼした。まだ私にもそんな可愛げあったのね、と。
「今日はもう寝よ…。」
カチ、と紐を引いて明かりを豆電球にし、は布団に潜り込んだ。





結局あの日は、午前2時くらいにメールが入っていた。一体何時までなにをやっているのかと、心配になってしまう。
(でもなー…毎日電話も鬱陶しいよなー…)
最近はメールばかりだ。
……探の声を、聞きたい。
「…出て、くれないってわかってるけどさ。」
それでも。
短縮1番に続き、通話ボタンを押す。聞き慣れたコール音を何度か聞き、やがて通話状態に入る。
『……はい、白馬です』
「さぐっ……!?」
『ただいま電話に出ることができません……』
瞬間浮ついた心が、あっという間に下降する。やっぱりるすばん電話だ。…だけど。
(いつの間に…自分の声にしたのかな)
耳に響く声が、なんだか懐かしい。くすぐったくなって、ふふっと笑みをこぼす。
『ご用のある方は、今から15秒以内でどうぞ』
「15秒!?」
なんだか短い。しかも今から、と来たものだ。どうしよう、特に用事があったわけではないのに。
「ええと……うんと、探っ……」
留守電相手なら。
言ってしまっても、いいだろうか。
「…………会いたいよ、探。」
ポツリ、呟いた言葉は、あなたの耳に、心に、届いてくれるだろうか。
『………僕も、会いたいよ。』
「…………っ!!?」
ばっ、と電話を耳から離す。……今、なんて?
?』
「なっ…探!?今、留守電に……!」
『あぁ、ごめん。ちょっとした冗談だよ』
「じょっ……」
そんな、それじゃあ私は、その冗談相手に………
『…の本音が聞けて、良かった。』
「………え?」
涙目でパニック状態だったに、白馬の声がゆっくりと染み込んでいく。
は、すぐに自分を殺しちゃうから。たまにはそうやって言っていいんだよ。………ごめん、無理させて。明日、会おう。いつものとこで』
「〜〜……っ、うん!」
電話ごしにだって、わかる。
きっと今探は、すごく優しい微笑を浮かべてる。見られないのが、残念なくらい。
「……ねぇ、探。ひとつ、わがまま言ってもいい?」
『うん?』
「るすばん電話の声、本当に探にしてほしい。そうしたら、電話をかけても、寂しい気持ちにならないから。……あ、でも、」
『いや』
他の人からもかかってくるのに都合が悪ければ…と言いかけたの言葉を遮り、白馬が言う。
『この携帯、専用だから。』
「せんっ……」
サラリと言われた台詞に、呆気にとられる。
『だから、時間が空いたときに録音しておくよ。できるだけ頻繁に代える。僕が空く時間とが空く時間は、どうしたってズレることが多いからね。』
「…………うん。ありがと。」
…あなたの声が、優しさが。
じんわりと、心を満たしていってくれるの。





あれからも、会えない日々はどうしたって多くなってしまうのだけれど。
『…今日は、嬉しい知らせがあるよ』
「うん?」
るすばん電話の声が、少し間を空けて。
『明日からは、しばらく自由の身なんだ。旅行にでも行こうか』
「………!!」
愛しい声が紡いでくれた、言の葉に。
は、携帯電話を握り締めて満面の笑みを浮かべた。



る す ば ん 電 話 の 声 が す き


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