「ほら、白馬くんとさんよ。」
「本当だ。今日も素敵ねー」
「正に理想の優等生カップルよね」
ぼそぼそと聞こえる声は、聞き慣れたものたち。
聞こえない振りをするわけではないけれど、いちいち反応を返すこともない。
「…帰ろうか、さん。」
「ええ。」
にこ、と微笑んで。
雨が降る中、色違いの無地の傘が、二つ並んで校門を出て行った。





「…疲れたー!」
「はいはい。お疲れ様。」
「それ、本当に労ってる?」
「勿論」
大分学校から離れてから、は全力でため息をついた。
「優等生なんて、やめちゃえばいいのに。」
「そんな、今更…」
「それもそうか。まさか本当のは、寝相もすごいし寝起きは最悪だし休日のスタイルは短パンにシャツ一枚…」
「わー!わー!わー!!!」
慌てて白馬の前で手を振るに、白馬は吹き出した。
「…冗談。どれも、僕だけに見せてくれるの姿だからね。もったいなくて、誰にもいえないよ」
「………それも、どうだろう。」
さらりととんでもないことを言ってくれる、と赤面する。全く、優等生の皮をかぶっているのはどちらだ。
「どうしても行きたい大学があるから、それまではねー。内申点、大事だから。」
「…うん。がそうやって頑張ってるのを知ってるのも、僕だけだ。」
ふ、とやわらかく微笑んで。
その笑顔がなんだかくすぐったくて、も小さく笑った。
「……雨、やまないね。」
「予報では、明日の朝まで降るみたいだよ。…台風の影響らしいけど、こっちまで風はきていないね。雨も警戒するほどではないし」
朝から降り続ける雨は、止む兆しを見せることなく降り続けている。
注意報や警報が出るほどではないが、傘なしに歩けるほどやさしい雨でもない。道行く人の顔も、皆傘に隠されていて見えない。
「明日の朝まで、かー…。明日、1限持久走だったよね。中止になるかな」
ちょっと期待をこめて言ったの言葉に、白馬がふむ、と考える。
「朝まで、っていっても…この調子じゃ、明け方には止むだろうな。うちの校庭は比較的水はけがいいし、1限には間に合うんじゃないか?」
「えー。」
不満を述べたに、白馬がきょとんとして続ける。
は足も速いだろ?別にいいじゃないか」
「速い速くないじゃなくて、単純に、苦手。」
だって疲れるんだもの、とへたり顔でぼやくに、白馬は苦笑した。…これが、明日の朝にはきりっとした表情で颯爽と1位で走って見せるのだ。わかってはいても、そのギャップがなんだか可愛らしく思えてしまう。
(まあ、男子は別コースだから実際には見れないんだけどね、)
想像には難くない。
そんな白馬の様子を見て、が不思議そうに聞く。
「探?どうかした?」
「いいや、別にどうもしないよ。」
今のは、秘密にしておこう。何考えてるんだ、ってきっと君は怒るから。
「…あ。」
楽しい時間は、あっという間で。
気付いた時には、目と鼻の先ににの家が迫っていた。
「…じゃーね、探。雨、長引くこと祈ってて。」
そう言って先に行こうとしたの腕を、白馬が後ろからぐっと強く引いた。
「わ、」
不意の動きに体がついていかず、勢いあまって白馬の腕の中へと倒れ込む。

そして、


「  」            
             ザァァアアアアア

                  「      」

ザァァァア、

           「      」


「……っ、探!!」
どんっ、と白馬の胸に腕を突っ張って体を離したは、
「可愛いよ、。」
「…………………………っ!!」
頬を真っ赤にして、肩で息をして。
「な、な、なに、かんが、えっ…!ここ、つが、く…!」
抗議もまともに声にならないに代わり、くすくす笑いながら答えてやる。
「大丈夫だよ。確かに通学路だけど、江古田の制服を着ている生徒は周りにいない。仮に私服でいたとしても、見えていない。…全部、傘が隠してくれているよ。」
「そっ……!」
「いいだろう、たまにはこういうのも。あんまり、根を詰めすぎない様にするんだよ。…いいね?」
「……わか、った………。」
抗議は無駄だと心得たのだろう。真っ赤になったまま、は渋々と言った具合に頷いた。
雨の中に放置されていた自分の傘を拾い上げると、きっと睨みつけるように白馬を見て言う。
「…また、明日っ!!」
「ああ。また明日。」
そんなに気合いを入れて言わなくてもいいだろうに。
そう思いながら、白馬も微笑を浮かべて返す。
…そう。それでも、明日の朝にはきりっとした表情で颯爽と1位で走って見せるのだ。
(可愛いな、本当に。)
この雨が、降り止まなければいいのに。
そんな不謹慎なことを考えながら、白馬はくるりと傘を回して水滴を弾き飛ばした。



雨の日はフマジメな キ ス を


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