「………………う。」
図書館なんて珍しい場所に寄ったりするんじゃなかったあと5分早く出てれば良かったっていうかなにこのタイミング神様の馬鹿野郎、と、一瞬の内に様々な言葉が脳内を駆け巡っていった。…が、神様に愚痴るのはとりあえず後にして、何食わぬ顔でくるりと180度反転して背を見せ駆け出そうとしたときだった。
さん?どうしたんですか?」
「げがっ……」
後ろから襟元を指で引っ掛けられ、人として不自然な声を上げる。唐突な攻撃に倒れ込み、は涙目になりながら頭上の人物を見上げた。
「早っ……!ごほっ、ちょ、早すぎるよね!?10mはあったよね!?」
「…仮にそうだとしても」
倒れ込んだままのをヒョイと抱き起こし、にこりと微笑んで言う。
「僕が、さんを逃がすはずがないでしょう?」
そう言って、の涙をそっと指先で拭ってみたりして。
(殺られる……!!)
どう考えてもときめく場面なのだろうが、目が全く笑っていない。なんていうか、多分、銃口を向けられたらこんな心境になるんじゃないかなって思う。
白馬の言葉に「は、ははっ」とひきつり笑いで応えると、はじわじわ後ずさりした。
「よ…要求は!!」
「やれやれ。僕は誘拐犯かなにかですか?」
クスリと笑った白馬に戦慄する。なんて綺麗な笑顔だ。綺麗過ぎて怖い。裏がないわけがない。
「…は、白馬くんは」
「ん……?」
「その…何で……」
何で、
「私に…」
「僕も案外子供じみてるんです」
の言葉を遮り、白馬が両手をあげて苦笑しながら言う。
「子供…じみて…?」
わからない。
彼は何故、いつも私に意地悪なことをしてくるのか。嫌われているのだろうか、とも思うが、敵意は感じない。探るように言ったの言葉に、白馬も同じようにして問い掛ける。
「君は、黒羽くんが好きなのでは?」
「へ?」
あまりにも唐突といえば唐突な白馬の台詞に、は相当間の抜けた声を上げてしまった。
それを見て、白馬がつかつかと一気に距離を詰める。
「ひゃあああああ!?」
あっさり壁際に追いやられ、肩を掴まれ真正面から瞳を覗きこまれては…さすがに動揺を隠せない。
「……本当に?今ほど自分の推理が外れているよう願ったのは初めてだ」
「な、なんでそうなってるのかはわかんないけど、快斗は単なる幼なじみで、そ、それだけだよ…?」
(………なんだ。)
そう、だったのか。
遠回しに、小学生のような幼さで君への想いを告げていたのだけれど。
「じゃあ、遠慮する必要も、我慢する必要も一切ないんですね」
「え……?」
何かこれ以上ひどいことをされるのだろうか。
戦慄したの手を取ると、その甲に白馬がすっと口づけた。
「っ!!?!??!!」
…あまりの驚きに、が声にならない悲鳴を上げる。それを見て、白馬が本当に楽しそうに笑って言った。
「今までごめん。これからは真っ正面から行くから、心配しなくていいよ」
「な…な………」
何が、どう、心配ないというのだろう。
どこか吹っ切れたような様子に、そしてざっくばらんになった口調に、が全身疑問符の様相を呈した。
「そう、はっきり言わないとわからないか」
壁際に追いつめたまま、今度はの髪を一房手に取り、そこに口づける。
「………姫。あなたの心を、僕に下さいませんか」
「な」
「白馬ぁぁぁぁああああっ!!オメーに何してやがる!!」
「……おやおや。番犬のご登場か」
すっとから離れると、「また」と小さく声をかけて階段を降りていってしまった。
「おい!白馬の野郎に変なことされなかったか!?大丈夫か?」
「……〜〜快斗、ちょ、腕貸して…」
「え?」
「腰…抜けた……」
そう言って、はその場にへなへなと座り込んだのだった。


(一方通行だと思っていたのに、)

(嫌われていると思っていたのに、)





さ ぐ り 合 い は も う お し ま い


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