ブルー・ワンダーの巻 1





「あーおもしろかった!しかもこれ、次はオッサンズ12になってまたやるんだって!」
「もういいんじゃねーか…?」
「快斗はわかってないなぁ!ほら、例えばあのシーンとか…」
言ってがパンフレットを開こうとしたとき、地鳴りにも似た音が背後から迫ってきた。
ドドドドド…
「…へ?」
振り向くよりも早く、の真横の車道を犬を乗せたハーレーが猛スピードで駆け抜けていった。運転しているのは…初老の男性だろうか。
「行け!!ルパン!!」
ガウガウガウッ!
指示を受けて飛び出した犬は、猛烈に吠えながら一人の男を取り押さえた。それを見て、満足そうに先ほどの男性がハーレーから降りてくる。
「何?あれ…映画の撮影?」
呆気にとられたがぽかんとして見ていると、快斗が軽く伸びをして人垣の向こうを見やって言った。
「ひったくりを捕まえたみてーだな」
「えー!?すごいじゃん!もっと近くで見ようよ!」
行ってそちらへ向かおうとしたを、快斗がむんずと捕まえる。
「…何?」
「いや…その、変なことに巻き込まれない内に帰ろうぜ」
「えー!」
そうしてもめている間も、輪の中心にいる人物の会話は耳に入ってきた。もともと声が大きな人らしい。
「たとえこの愛犬ルパンが振り切られても、1500ccツインカムエンジン搭載の儂のハーレーから逃げおおせられはせんよ…いざとなったらスピードアップの細工も施してあるしのォ…」
「ついんかむえんじん!よくわかんないけどすごそっ…」
「しーっ!しーっ!あんま大きな声出すな!」
瞳を輝かせながら言っているの口をあわてて塞ぐと、快斗はずりずりとをひきずってその輪から離れ始めた。
「んーっ!んーっ!」
「明日の朝も早いしなっ、さー帰ろうぜ!」
後ろでまだなにやら声が聞こえていたが、快斗は振り向かずに歩き続けた。
(あいつ…)
あの、眼鏡の、小学生面した探偵君。
「うーん…」
…なんとなく、嫌な予感がする。








『怪盗キッドに告ぐ!!』

「…こりゃまた、随分派手だね」
「金持ちの考えることはわかんねーな…」
快斗の読んでいる新聞を後ろから覗き見ながら、が苦笑混じりに言った。快斗がどんな表情をしているかなど、見るまでもない。
「なになに…『貴殿が所望するビッグジュエル“大海の奇跡”を潮留に在する我が大博物館の屋上に設置した…手中に収めたくば取りに来られたし…鈴木財閥相談役鈴木次郎吉』…ね。これっていわゆる挑戦状でしょ?」
「挑戦状…ねぇ…」
おもしろくなさそうにページを繰ろうとした手を、横から伸びてきた手がぐっと掴んだ。
「おはよう、黒羽くん。それにさん」
「おはよう、探くん」
笑顔で返したとは対照的に、快斗は憮然として言った。
「…放せよ」
「これは失礼。少々気が急いてしまったようだ」
「何だと…?」
ひょい、と手を離して言った白馬に、快斗は剣呑とした目線を投げつけた。白馬もそれに怯むことなく、軽く笑みをたたえたまま真っ向から睨み返す。
「逃げるのか?こんな挑戦状を受けて?僕が捕まえたいキッドは、そんな矮小な奴ではなかったと記憶しているのだけれどね」
「…オレはキッドじゃねーって何回言えばわかるんだ?」
(あーあ…)
白馬に見せているのとは反対の頬、つまりに見せているほうの頬が、ぴくぴくと引きつっている。こんな自信満々の挑戦状を出すくらいだ、罠だって準備万端整っているだろう。正直、行ってほしくはないのだが…
「見損なったな」
ぴぴぴぴくぅっ!!
「…勝手に見損なってろよ」
(だめだこりゃ)
…絶対受けちゃうよ、挑戦状。
探くんも随分派手に煽ってくれちゃったなあ、などと思いながら、は深々とため息をついたのだった。




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