「…そーいえば園子って、お嬢様だったよね」 「ハハ……」 キッドがやってくる、警察の厳戒態勢真っ只中でのこの待遇。なんだかもう申し訳ないような気持ちになりながら、はこそこそと椅子に座った。 「風が強いですね…」 乱れる髪を押さえながら言った白馬に、も応える。 「そうだね。ヘリがこんなに近いとさすがに…ちょっとうるさいしなぁ。まぁ、仕方ないけど…」 これでは、座ったところでちっとも落ち着けない。こんな日に帽子なんかかぶってくるんじゃなかったと、押さえようとして手を伸ばした瞬間に風にさらわれてしまった。 「あ」 「きゃっ」 全く同時に、蘭の帽子もさらわれた。どうやら、今の風は一際強いものだったらしい。 「ボク取って来るよ!!」 「さんの帽子は、僕が」 「あ、探くん!!ごめんねー!」 たっ、と駆け出した二人を見送って、はテレビ画面を注視した。…早くもキッドの特番が組まれているのを見て、苦笑する。全く、怪盗キッドは大人気だ。これでは警察もやりにくくて仕方ないだろう。 「…どうやら君も、気が付いたようだね」 の帽子を手にして言った白馬に、コナンが不敵な笑みを浮かべて答える。 「あぁ……」 「さて、それでは皆への指南は君に任せるよ。さんと一緒に、またあとで合流しよう。」 「? と?何か用でもあるのか?」 「確認したいことがあってね。失礼」 に声を掛け、すたすたと歩き去る白馬をなかば唖然として見送る。…以前も思ったことだが、どこまでも個人プレイというか、自分のやりたいようにやる人物だと思う。最も、探偵なんて皆そのようなものだとは思うが。 (オレも、な……) がしがしと頭をかいて立ち上がる。久しぶりにに会えて、少しはしゃいでいたかもしれない。バレるようなことはないと思うが、もう少し「小学生らしさ」を出していった方が安全だろう。 「タネや仕掛けはあるんじゃない?だって、そんなに簡単に人が空を歩けたら……」 「探くん、調べたいことって?」 「昨日の映像でちょっと、確認したいことがあるんですよ」 あそこにいても、どうせキッドを見ることは叶わない。さっさとを連れ出すと、白馬は警察が用意した車に乗り込んだ。 「…ね、ねぇ、探くん、もしかしてこれって……」 「製作スタッフの中につてがいましてね。本当はもう、ここにはないはずのビデオなんです。…特別、ですよ?」 イタズラっぽく微笑んで言われ、慌てて視線を逸らす。なまじ整った顔で言われると、意識なんかしていなくてもドキリとしてしまう。 「さんは、どんなトリックが使われたと思いますか?」 再生ボタンを押しながら言われ、しばし考え込む。実は昨日からずっと考えてはいたのだが、自分の脳ではどうにも限界だった。快斗に聞けば話は早いのだが、なんだかお互い牽制状態に入っていて連絡もしがたい。 「…正直、全然わからないかな。昨日コナン君と屋上に行ったんだけど、そのときもワイヤーはなかったし。その前にヘリが頭上に飛んでいたでしょう?てことは、頭上から吊ってたわけでもない。それこそ、見えない道を歩いているみたいだった…」 再生映像を見ながら言う。7番機から撮られたらしいそれは、キッドを頭上から映していた。 「では、ヒントを。…思い込みや、先入観は捨てた方がいい。それから、順序もね。それは一つの道ではあるけれど、道は一つではないから。違う道を辿れば、違う答えに辿り着くはずです。」 「先入観…順序……?」 「そう…例えば、ヘリが飛ぶより先に屋上に上っていたら、どうだったかな?そして、彼が今までしなかったデモンストレーションをわざわざ行った意味は?」 「え?」 が言葉の意味を理解するより早く、白馬はビデオの停止ボタンを押してしまった。どうやら、確認したいことは済んだらしい。 「ヒントはお終いです。そこからどのような答えに辿りつくかは、さん次第ですよ」 「…うん、わかった。ありがと、探くん」 材料は全て与えられた。白馬は、あとは次第だと、結論を委ねてくれたのだ。 『〜〜♪』 車を降りたところで、携帯が鳴る。着信画面を見て、は飛び上がった。 「ごめん、探くん!先に皆のところに戻っててもらっていい?私もすぐ行くから!」 「ええ……」 たっ、と駆け出したの後姿を見送って、白馬は苦笑した。…少し、刺激しすぎたかもしれない。 (このくらい、いいだろう?…黒羽君。) 僕はもう、身を引いているのだから。 「ちょっと快斗!?何してんの!」 『それはこっちのセリフだバーロー!!オメーこそ何してんだ!!』 着信画面「黒羽快斗」に、何事かと電話に出てみればコレだ。もう予告時間まで時間がないというのに、一体なんだというのか。 「私?私は……」 『喧嘩はサシでやれって言ったのだろ!どう見ても白馬に加担してるだろうが!!』 「……あー。」 なんとなく、わかった。きっと今も、誰かに変装か何かして近くにいるのだろう。の動向がわかるような場所に。 …要するに。 「スネてるんでしょ。」 『なっ!?す、すねてなんかねーよ!!』 上ずった声に、吹き出す。…全く、わかりやすすぎてどうしようもない。 「だいじょーぶだよ、別に加担したとかじゃないから。成り行き成り行き。最後は手出ししないから、思う存分やって。…っても、快斗、多勢に無勢だね。コナン君とかもいるし…」 『コ…あー、まぁ、あいつはな。とにかくっ、そーいうことだ!じゃーな!!』 「え?快……」 既に切れた電話からは、もう何も聞こえない。だが、今の口ぶりでは… (やっぱり、知ってるんだ。コナン君のこと) 気にならないといえば嘘になるが、今気にしてどうなることでもない。軽く首を振ると、は白馬の後を追って走り出した。 ---------------------------------------------------------------- → BACK |