「お前、今度からはもう現場に来るな」 放課後、快斗に「ちょっと残れ」と言われ、何を言われるのかと思いきや。 唐突な快斗のセリフに、は暫し固まった。 「え…なんで?」 「なんでも!…つっても納得しないだろうからな。いいか、よーく聞いとけ」 が座っている椅子のひとつ前の椅子に腰掛け、快斗は腕を組んで言った。 「…今までは、白馬がいた。けど、今はロンドンだ。つまりお前は現場で一人。危険すぎる」 それを聞いて、は暫し考え込んでいたが、つと顔を上げると前々から気になっていた疑問を口にした。 「…あのさ、快斗」 「なんだよ」 「何がそんなに危険なの?」 …おかしいとは思っていたのだ。どうも快斗には、白馬以外にも自分を現場に行かせたくない理由があるように思えた。今は、白馬はいないのに“危険”だと言う。一体何が危険だというのだろうか。 「そ…れは…」 (あの組織が…って、やっぱ言えねーよなぁ…) …いつかは、話さなければいけないと思っている。 だが、快斗はまだその決心がつかずにいた。 には、自分がキッドをやっている理由もまだ話していない。 …待ってくれているのは、わかっていた。けれど… 「…キッド用に仕掛けられた罠とかにはまっちまうかもしれないだろ」 「な…そ、そこまで間抜けじゃないもん!」 (まだ…話せない) …怖かった。 馬鹿らしいとは思うし、がそれで自分を軽蔑したりしない、とわかっているけれど。キッドとしての自分を全て晒せば、当然父親の仇討ちのためだということも知られる。 大好きだった父親。自分からその父を奪った組織。自分が間違っているとは思わないし、これから先も思うことはない。だが、その理由を…彼女が、が、どう受け止めるのか。 拒否されたら? 侮蔑の目で見られたら? そんなことはない、はそんなことはしない。 …でも、もし…? 「…いと、かーいーとっ!どうしたの?」 「…へ?」 長いこと考え込んでいたらしい。ゆさゆさと肩を揺らされ、ようやく我に返った。 「いや、なんでもねーよ。とにかく…」 「来るなって言うんでしょ?わかったって。けど、今夜はフィナーレとしていちキッドファンになって応援しに行きます!それならいいよね?」 「んー…まぁ、それなら…」 あれだけたくさん野次馬がいるのだ、大丈夫だろう。 「やった!頑張ってね!」 「おう!」 …だが快斗は数時間後、それを激しく後悔することになる。 ---------------------------------------------------------------- 2004.7.18 → BACK |